タイトル「食べて寝て待て」に込められた、納得の意味

 本作のタイトルは、良い結果は焦らず待っていれば自然に得られるという「果報は寝て待て」ということわざに由来したものでしょう。ドラマの中で、主人公の麦巻や周囲の人々がおこなっているのは、「食べて」「寝て」という、シンプルで根源的な営みです。

 ここで特に重要な意味を持つのが、タイトルにある「待つ」という行為。麦巻は病気の根本的な解決や劇的な回復を急いで求めていません。日々の生活を丁寧に送りながら、体の声や心の声に耳を傾け、ゆっくりと状況が変化するのを待っています。

 これはまさに、「不確実で未解決な状態」の中に立ち止まり、性急な結論(=完治、あるいはそのための画期的な治療法)を求めないという意味で、先ほど述べた「ネガティブ・ケイパビリティ」の実践そのものです。

 自分ではどうすることもできない状況(病など)をまず受け入れること。そしてその中で、「食べる」「寝る」という、今の自分にできる最も基本的なセルフケアを大切にすること。それこそが、穏やかなしあわせを感じるための確かな土台となるのです。

 そして、「待て」という言葉が示唆するように、しあわせを追いかけ回すのではなく、日々の暮らしを丁寧に積み重ねていけば、自然と見えてくる自分らしいしあわせの形があるのではないか。

麦巻さんのささやかな日常が、変化を急がず、自分自身を労わる時間がいかに大切か、そして「待つ」ことの中にこそ見つかる真のしあわせがあることを、私たちに優しく教えてくれているのです。さぁ、今日は何を食べようかな。

【NHK公式】ドラマ10「しあわせは食べて寝て待て」


2025年4月1日(火)スタート<全9話>
総合 毎週火曜 夜10:00~
[再放送]総合 毎週金曜 午前0:35~1:20 ※木曜深夜

 

2025.05.20(火)
文=綿貫大介
写真=NHK