令和の静かなブーム「団地モノ」としての魅力
麦巻が引っ越してきたのは、築45年、家賃5万円の古い団地。そう聞くと「古い」「お年寄りが多い」といったイメージを持つ方もいるかもしれません。しかし、近年はリノベーション物件が増え、広めの間取りなのに手頃な家賃、昭和レトロな雰囲気、敷地の広さゆえの日当たりや風通しの良さなど、多くの魅力が見直されています。

さらに最近注目されているのが、団地を舞台にしたコミュニティ。世代を超えたつながりを生み出そうという動きも増えていて、NHKの『ドキュメント72時間』の団地回は高い人気を誇ります。
ドラマでいえば、50代、独身、実家暮らしの、団地で生まれた幼なじみのふたりの気ままでユーモラスな暮らし、さらりとした友情に共感が集まった『団地のふたり』のヒットも記憶に新しいところ(実は本作と同じロケ地という共通点も!)。特別な冒険も感動もあるわけではない、日記に記すほどでもないような日々だけど、そんな日々が愛おしいのだと、ほのぼの感じられる作品でした。
本作もまた、団地という場所だからこその「つながり」が際立っています。大家の鈴(加賀まりこ)は司を息子のように思っていますが、もし都心のマンションの希薄な人間関係の中で出会っていたら、「え、あの人若くてニートで居候なの!?」と、司に対してもっと驚きや疑念を抱いたかもしれません。でも、いろいろな交流が自然に行われる団地だからこそ、身構えずにすんなり受け入れることができるのです。
団地の住人たちは例に漏れず魅力的。高齢者の安心な住環境づくりは大きな課題となる中、孤立・孤独が叫ばれる現代において、司のような存在がいることの安心感は計り知れません。90歳とは思えないほどパワフルで、趣味で作っている洋服や小物のネット販売までこなす鈴さんも素敵だし、イラストレーターの高麗(土居志央梨)や高校生の弓(中山ひなの)など、回を重ねるごとに麦巻の交流の輪が広がっていく展開も楽しみの一つです。

個性豊かな住人たちとの間に生まれるのは、プライベートに過度に踏み込まず、でも困った時ときはそっと手を差し伸べ寄り添う、そんなゆるやかで温かい「つながり」です。
どこか懐かしくて、物理的な距離も心理的な距離も近い団地のコミュニティは、病気で孤立しがちだった麦巻にとって、まさに新しい「居場所」。現代社会で希薄になりつつある、人とのつながりの価値を、本作は力強く感じさせてくれます。
2025.05.20(火)
文=綿貫大介
写真=NHK