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出家したら黒歴史がチャラになる!?

酒井 寂聴さんとは対談などをさせていただいたこともあって、寂庵にもお邪魔したんですけれども、可愛らしくも芯の通った素敵な方でした。

みうら やっぱり寂聴さんみたいな生き方をして、ああいうふうに老いるのが憧れなんですか? 

酒井 「出家すると、俗世の苦しみから逃れられるところはあるから、そういう意味で楽さはある」というふうにおっしゃっていたのは、すごく印象的でした。平安時代の女性達も、ややこしいことがあると出家していますが、現世に生きながら別の世界に行くというのはどんな感覚なのか、興味はあります。

みうら 出家したらかつての黒歴史ってチャラになるんですか? なるんだったら、俺も出家したいなと思うんですが。

酒井 法律に触れるものはチャラにはならないかもしれないけど、そうではない部分で楽になるんですかね。寂聴さんにお会いしたとき、まだ私はすっごい若くて……30代だったのかな。つい、めちゃくちゃシンプルに「寂聴先生はなんで出家されたんですか?」って聞いちゃったんですよ。

みうら そう思いますよね。

酒井 はい。そうしたら、「いろんな男を一度にたくさん皿回しするみたいに回し続けるのに疲れたからなのよ」って。かっこいい、って思ったんですけど。

みうら 寂聴さんが出家したのは、僧侶で作家の金東光さんのところでしょ。あの方も型破りな人だったからね。あの寺に何かキーワードがあるんじゃないかな、と。

酒井 そういう系譜が、今ここにひとつにつながろうとしてるわけですよね。

「将来やりたいこと」の欄に「出家」と書いてた

酒井 みうらさんも、将来的には出家をイメージされていたりするんですか?

みうら 僕は小学校の文集の「将来やりたいこと」って欄に「出家」と書いてたクチなので(笑)。でも一応、仏教中学に進学して、仏教高校まで行ってるんで、その後、仏教系の大学に進学して、そのまま出家っていうサクセス・ストーリーもあったんです。でも、出家するにもそれなりの試験があるんですよ。家がお寺で継ぐ場合……僕は「次世住」って呼んでるんですけど、次世代住職はその試験をスルーしてる場合が多いみたいで。僕のような一般人は仏教を勉強して、お寺の床を拭き掃除したりとかして修行しなくちゃいけない。かなりキツいと思うんですよ。

酒井 拭き掃除は大変ですよね。腰、痛めるでしょう、必ず。

みうら 何年か前に、仏教系の大学のトークショーに呼ばれたことがあって、そこの学長にちょろちょろっと裏で手を回してもらって皆伝させてもらおうかなと思ってお願いしてみたら、「いや、それはあかんわ。うちは通信教育もあるから」って言われて。渡された通信教育のパンフレットを帰りの新幹線で読んでみたんですけど、うわ、これ結構ハードだなと思って。もう覚えられないですから。

酒井 記憶力が……。

みうら 今、1個情報を入れると、3個ぐらい出るでしょ。

酒井 出ます。大切な思い出が出ますね。

みうら 容量パンパンになってるから、もうダメだなと思って。その大学で、「タバコ吸っていいですか?」と聞いたら「ダメです。もう吸える場所はないです」と言われたんですが、何年か前にある高名な落語家さんを講演で呼ばれたとき、その方が「禁煙」って張り紙の前でタバコに火をつけられたらしくて。でもその方は人間国宝だから誰も何も言えなかったんですって。その話を聞いて、「出家するより人間国宝になったほうがいいな」と思ったんです(笑)。

酒井 高齢者向けに、ちょっと短縮した僧侶への出家への道があってもいいですよね。だって絶対あちらの世界も人材不足じゃないですか。うちのお墓があるお寺も、後継者不足みたいなことを言ってましたし。

みうら 法話の会場のキャパを埋められる人は、僧侶の道に行けると思う。法話力と人を集める力さえあれば。

酒井 みうらさんじゃないですか。

みうら だからちょこちょこ寺で講演会とかやっているんです。いつか「この寺、任していいかな?」って言われると思うんですよ。それをずっと待っているんですけど、誰も言わないんですよね(笑)

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みうらじゅん

1958年京都市生まれ。武蔵野美術大学在学中に漫画家デビュー。以来、 イラストレーター、エッセイスト、ミュージシャンなどとして幅広く活躍。1997年、 造語 「マイブーム」 が新語 ・流行語大賞受賞語に。 「ゆるキャラ」の命名者でもある。2005年、日本映画批評家大賞功労賞受賞。2018年、仏教伝道文化賞沼田奨励賞受賞。著書に『アイデン&ティティ』 、 『マイ仏教』 、 『見仏記』シリーズ(いとうせいこうとの共著) 、 『 「ない仕事」の作り方』 (2021年本屋大賞発掘部門「超発掘本!」に選出)など。音楽、映像作品も多数ある。


酒井順子(さかい・じゅんこ)

1966年、東京都生まれ。高校在学中から雑誌でコラムを連載する。大学卒業後、広告会社勤務を経て執筆に専念。2003年に発表した『負け犬の遠吠え』がベストセラーとなり、婦人公論文芸賞、講談社エッセイ賞をダブル受賞。『ユーミンの罪』『子の無い人生』『百年の女』『駄目な世代』『男尊女子』『家族終了』『ガラスの50代』『女人京都』『日本エッセイ小史』『消費される階級』などの著書の他、『枕草子』(上・下)の現代語訳も手掛けている。

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2025.05.23(金)
文=ライフスタイル出版部
撮影=佐藤 亘