人が迷い、悩むことは古今東西煮たり寄ったり

 周りの同世代の人々がどんな生活を送っているのかは気になりますし、実際、SNSにあげてらっしゃる方も多いですよね。身の回りの人間関係だけでなく、もっと多くの人々の暮らしや人生の選択をのぞき見することができ、「面白いなあ」と思うと同時に、人が迷い、悩むことは古今東西似たり寄ったりなのだと感じています。

 テーマを考えるときには、よくウォーキングをします。「歩くと頭に血が巡る」と小耳に挟んでから歩くようにしていて、いつものコースを散歩しても思いつかなければまた家まで歩いて帰ったり(笑)。だいたい、片道一時間に満たないくらいでしょうか。

 シリーズも長くなってくると、「この先、麻之助は本当に町名主になるの?」「清十郎はひと足先に家を継いだけれど、吉五郎の結婚はどうなるの?」などと聞かれることも増えますが、私自身、実はわかっていません。

 物語を引っ張っていってくれる人物は、“自己申告”してくれるんです。気楽者を書こうと思ったときから、それなら同じ人物の内面に正反対の部分もあった方がいいだろうとか、その連れである友人はどんな性格だろうとか、どんどん広がっていきました。

 私のお気に入りは、高橋家の飼い猫「ふに」。難題を押し付けられた麻之助はしばしば愚痴を聞かせますが、返ってくるのはいつも「ふにゃふにゃ」と気ままな鳴き声ばかり。ふにがいると、何となく場面の緊張感が緩む気がします。

 猫や犬を拾うときって、本当に責任を持って飼えるかなどといろいろ思い悩みますが、いざ飼ってしまうともう、いない生活なんて考えられなくなりますよね。ふにもすっかり麻之助の家の主として君臨していますが、こんな風に、書いているうちに勝手に肉付けされていくキャラクターもいれば、逆に広がらず、じきに登場しなくなってしまう人物もいます。これまでの十作を通してその流れも楽しみつつ、「隣にいたい」と思うキャラクターを見つけていただけたら嬉しいです。

はたけなか・めぐみ
高知県生まれ、名古屋育ち。漫画家を経て、2001年『しゃばけ』で第13回日本ファンタジーノベル大賞優秀賞を受賞してデビュー。以来、「しゃばけ」シリーズは大ベストセラーになり、16年には第1回吉川英治文庫賞を受賞した。他に、「まんまこと」「若様組」「明治・妖モダン」「つくもがみ」などの各シリーズ、『ちょちょら』『けさくしゃ』『うずら大名』『まことの華姫』『とっても不幸な幸運』『わが殿』『猫君』『御坊日々』『忍びの副業』など著書多数。共著に『人生を豊かにする歴史・時代小説教室』がある。

ああうれしい

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文藝春秋
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2025.05.14(水)
文=畠中 恵