この記事の連載
志村貴子さんインタビュー【前篇】
志村貴子さんインタビュー【後篇】
未来の自分に遠投するように物語を紡ぐ

――その他のキャスティングについてもお伺いしたいです。原作では、グイグイくるタイプの義母・依子と綾乃の微妙な関係も描かれていて、ドラマではそれを麻生祐未さんが演じていらっしゃいました。
志村 原作の依子はふくよかでちょっと図太い感じですが、麻生さんには線が細いイメージがあったんですね。それで、「美しすぎない?」「たおやかすぎない?」と思ったんですけど、素晴らしく演じてくださって。
――渉役の濱正悟さんを取材した「CREA」編集部から、撮影現場の雰囲気もとてもよかったと聞きました。現場で対話を重ねながら夫婦の形を作り上げていったそうで、作品にかける愛がスタッフの方も、演者の方にもたくさんあったんだなと。
志村 ありがたいです。依子と渉のシーンは、親子の会話が本当に自然で、つい自分が書いたセリフだということを忘れて観入ってしまいました。

――大人になってからの恋愛のお話なので、仕事や家族を巡るリアルな困りごとも盛り込まれていますもんね。そんな作品が完結したのが2023年で、それから2年経ちましたが、改めて思うことはありますか? たしか連載当初のコピーが「胸騒ぎの大人百合」だったかと思うんですけど。
志村 描いている時はいっぱいいっぱいでしたし、すぐに次のお仕事が始まったりしたので、しみじみ振り返る余裕があまりなくて……。そうですね、読み切りや同人誌で、大人同士の女性の恋愛も描いたことがあったんですけど、長編は初めてでしたし、長編作品ならではの難しさがありました。もちろん、短編には短編の難しさがあるんですけど。
――主役のふたりが活き活きとしたキャラクターであればあるほど、物語はどこまでも続けられる訳で、どの時点で締めくくるかは相当難しそうです。原作に関しては、いつぐらいに「ここを着地点にしよう」と決めてらっしゃったんですか?
志村 当時のことは本当に記憶になくて、何を考えていましたっけ? という感じです。
(編集 「物語をどう閉じるかというのは結構、直前に決まったにもかかわらず、クライマックスのネームをいただいた時は、展開が見事で『天才!』と思った記憶があります」)

――確かに最終回に絡むあのキャラクターは、直前で都合よく登場したキャラクターではなく、数巻前に登場しましたよね。
志村 遠投したボールを、「そろそろ、あの辺りに落ちそうだな」と、拾いに行くようなやり方で、その都度、描いているんです。「未来の私に期待!」って感じで。
――それは、ご自身を信頼していらっしゃるということでしょうか?
志村 その場しのぎじゃないですかね? そういう生き方をしてきて、それが仕事に出てしまっているという感じがしないでもないですけど。
――とても素敵な締めくくり方でした。綾乃と朱里の関係がこの先どう変化していくかは分からないけれど、個として地に足着いているふたりだから、これから先もいい距離感で関係が続いていくんだろうな……とふたりを見送るようにして本を閉じました。その後も余韻が続いて。
志村 そう言っていただけるとありがたいです。読んでくださった方が物語を補完してくださるので、「いいの?」と思いながら、それに甘えるやり方で続けてきたなと思います。
》志村貴子「自分の感性が鈍ってきている」「まだ本当の解放された絵を描いていない」30周年を前に明かす、創作の苦悩と理想
志村貴子(しむら・たかこ)
1973年、神奈川県生まれ。1997年『ぼくは、おんなのこ』でデビュー。代表作『青い花』『放浪息子』はテレビアニメ化された。2015年、『淡島百景』が第19回文化庁メディア芸術祭マンガ部門優秀賞を受賞。2020年、『どうにかなる日々』のアニメが劇場公開。その他、『こいいじ』『娘の家出』『敷居の住人』『ハツコイノツギ』など、著書多数。2025年、『おとなになっても』が自身初の実写ドラマ化。

Huluオリジナル「おとなになっても」
4月26日(土)よりHuluにて独占配信開始(全12話)
出演:山本美月
濱正悟
桐山漣* 河北麻友子
錫木うり 樋口日奈 織田梨沙
野口かおる 田中直樹
麻生祐未
栗山千明
*桐山漣さんの「漣」のしんにょう点はひとつ
原作:志村貴子『おとなになっても』(講談社「Kiss」所載)
©志村貴子/講談社 ©HJホールディングス
https://www.hulu.jp/even-though-were-adults/

おとなになっても(1)
定価 150円(税込)
講談社
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2025.05.04(日)
文=山脇麻生
写真=末永裕樹