見えない未来を「しいたけ占い」にゆだねる日々…
そんな不安を胸のどこかに抱えたまま、今の会社に就職して9年目になった。仕事は楽しいが相変わらず目標がないことに変わりはない。変われない。変化を恐れてばかりで毎日コンビニで同じお茶を買っているし。少しでも自分を変えたくて毎週月曜日は仕事中に「しいたけ占い」を見ている。
今週はどうやって過ごせばいいのか。どこに向かえばいいのかを尋ねる。「あなたが正しいと思う方法で自由にやってみよう」みたいな文章を見ては心のなかで深い頷きをする。そしてページを閉じた瞬間に忘れる。自由にやってみる事の難しさ。自由にやってみる事の恥ずかしさ。自由にやってみる事の虚しさ。何でもできる。はずだけれど。働いてある程度の貯金もあるし欲しいものは大抵は買える。仕事も比較的自由な時間が多くてどこにでも行ける。なのに。それなのに。
何を買っても積まれていく。埃。どこに行っても忘れてしまう。記憶。何を食べてもカメラロールの面積を増やすだけ。記録。そんな日々で。未だに自由が分からず、また横になってスマホでTwitterを見ている。おすすめ欄の意味のない情報。スクロール。100メートル。過剰な表現のオススメグルメばかりで、この世の全ての食物がうますぎてヤバいのではないかとすら思えてくる。家。会社。家。会社。家。会社。あとはどこに向かえばいいのだろう。占いが教えてくれるのは曖昧な自由と曖昧な言葉の羅列だけだ。すぐに弾ける泡みたい。でも、それでも見てしまう。灯台の灯りが必要です。
どうなりたいか。何をしたいか。その日の夜ご飯の事しか真剣に考えられない僕にとって、果てしない未来について想像する事ができない。世界に対して不満を持つことすらめったにない。今。だけ。それか今日の夜まで。だけ。どんな一日も次の日の朝にはリセットされてまた新しいけど同じような毎日を過ごしている感覚。毎日が続いているような気がしない。
日々の連なりが人生ならば、この人生はいったい何なのだろう。あと少しで死ぬ時も夜ご飯の事を考えているのだろうか。全部大丈夫にするから全部大丈夫にしてほしい。本当に。
ただ最近は、目標がないことも悪くないと感じているし、結婚についても時間が経ってやっと意味みたいなものに気が付き始めたと思う。結局は、そんな風に生きてこれたってだけだ。分からないものを分からないままにして、今ここにいるから。瞬きと呼吸と、朝に妻のスマホから流れるアラームだけがそう思わせてくれる。もしかしたら目標を持つともっと不安になるかもしれないから。仕事をして家に帰ってご飯を作って食べる。普通だと思える。それだけの安心と顔見知りの不安を持って眠る。変わらないで。自分。変わるかも。自分。せめぎ合って。そうやって咲いた花に水をあげつづけていく。
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目標がない。進むべき方向を指し示してくれるような。心の闇をそっと包み込んでくれるような。動かなくなった脚を一歩だけ進ませてくれるような。そんな目標がない。
ノイズキャンセリングじゃ消せない心臓と電車の音。ふわふわ頭の中のぼやけた言葉。また同じ行動で夜。決まりきった睡眠。寝てるときだけが自由みたいで。また会社に行く。朝。道に落ちていた折り畳み傘のカバーが帰りも同じ場所に落ちていた。目印みたいで嬉しかった。
今日も、夜ご飯の事を考えながら生きている。たまに明日の分も。
マンスーン
1987年東京都生まれ。ライター/ディレクター。大学卒業後、6年間の無職生活を経て、WEBメディア「オモコロ」を運営する株式会社バーグハンバーグバーグに入社。話題になったPRコンテンツの制作ディレクションや役に立たない工作記事を執筆している。
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編集部が注目している書き手による単発エッセイ連載です。
(タイトルイラスト=STOMACHACHE.)
2025.04.25(金)
文=マンスーン