行方不明のチラシに感じた違和感

【さがしています】
○○○○さんをさがしています。
身長:約○○○cm
失踪日:○○年○○月○○日【特徴】
・灰色の上着
・茶色いズボン
・婦人用の黒いバッグ
・少し足をひきずる歩き方
・右手に赤いリボンを巻いています何かご存じの方はご連絡ください。
○○○-○○○○-○○○○
上部には老婆の不鮮明なモノクロ顔写真が貼られていました。
認知症などが原因で、あるときふと姿を消してしまう事例は耳にしたこともあったので、Fさんはかろうじてわかる老婆のうつろな表情を見て心が痛んだそうです。
印象的な“赤いリボン”というのも、もしかしたら普段から行方をくらましがちだったこともあって、親族が目印がわりに付けさせていたのだろうか。きっと、山中のコンビニにまで貼りに来るほど、彼女の親族は気が気じゃなかったのかもしれないな。——そんな風に考えていたとき、Fさんはあることに気がつきました。
【さがしています】
○○○○さんをさがしています。
身長:約○○○cm
失踪日:○○年○○月○○日【特徴】
・黒い上着
・ベージュのズボン
・グレーのリュックサック
・首の右側にホクロあり
・右手に赤いリボンを巻いています何かご存じの方はご連絡ください。
○○○-○○○○-○○○○
ガラス窓に貼られているのは同じ貼り紙のコピーと思っていましたが、全部“違う老人”の失踪情報の貼り紙だったのです。
違う名前。違う身長。違う日付。違う服装。
それにも関わらず、その文言だけは全く同じでした。
【右手に赤いリボンを巻いています】
同じ老人ホームにいた人かな……だとしたら7枚はあるかというこの貼り紙の老人が、全部同じ場所から逃げたということになる。貼り紙の中には失踪したのが数年前と記されているものあるし、それはさすがにあり得ないか——そんな疑念が頭をよぎりました。
昔見たファックスのコピーのようにガビガビにぼやけた老人たちの顔写真。
“この人たちみんなもう生きていないだろうな”
突然、頭に浮かんだそんな予感。ガラスの向こうの暗い夜道に浮かぶ生首のような老人たちの白黒の写真が、自分を見つめているような気持ちがして、Fさんは急に恐ろしい気持ちになったそうです。
2025.05.03(土)
文=むくろ幽介