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春に読みたくなるのはなぜ? 髙見澤俊彦作品『特撮家族』篇

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 春が来た。何かが始まる予感がするこの季節と、読書、そして音楽はめっぽう相性がいい。ページやメロディーに乗って広がるもう一つの世界には、新たな世界に飛び出すエネルギーとヒントが詰まっている!

 そこで今回は、夢と笑いとロマンと音楽が詰まった、とある小説について、ぜひ語りたい。

 タイトルは『特撮家族』。作者は、髙見澤俊彦――。言わずもがな、THE ALFEEの王子担当、高見沢俊彦さんのペンネームである。

 2023年に刊行された小説だが、あえて今、この時期オススメするのには理由がある。

 神田明神と神田祭が物語のカギになっており、春というスタートの季節、神様が応援してくれるような気持ちになるから。そして「何かに夢中になる」という気持ちの尊さを思い出せるから――。

 というのも、この本、特撮映画、怪獣フィギュア、武将、歌謡曲、激動の1970年代、神道、神話などなど、髙見澤さんが愛するモノやテーマがギッシリ。「詰め込みましたな~!」とツッコみたくなるほどだ。しかも、それが驚くほどきれいに組み合わさり、テンポよく一つの物語に合流し、進んでいくのだ。

 特に怪獣や特撮映画について会話するくだりのイキイキ具合は異常。「好きなものを語っている時の、オタクの猛烈な早口」が聞こえてくるよう。特撮映画について興味も知識もない私が、ゴジラとジラースのエリマキについてのエピソードに感動し、『ウルトラマン』を観たくなってしまったほどである。

 髙見澤さんのゴジラ愛は有名で『週刊文春 WOMAN2025春号』でも思いのたけを語られているが、『特撮家族』はフィクションの力を借りているので、別の熱さがある。深夜キーボードを叩きつつ、ゴジラのフィギュアと会話しているヤバい髙見澤さんが目に浮かび、萌える!

 「どんな本やねん」と首をかしげていらっしゃる方も多いと思うので、ネタバレを避けつつ、ほんの少しのあらすじと主要登場人物を共有したい。

 主人公の美咲は優秀な銀行員で、気が強い、武将オタクの歴女。そして、男を見る目がない。大事な部分なのでもう一度書く。男を見る目がない。

 兄の健太はテレビプロデューサー。やさしいが、言葉足らずで誤解されやすい、特撮映画オタクである。次女の結衣はしっかりものの美容師。バンドマンの彼氏がいる。

 この3人兄妹の父親の洋介は神道文化の教授で怪獣オタク。ここにうさん臭いがなぜか憎めないイケメン颯太郎、明るくてノリのいい神様、少彦名命が加わり大騒ぎとなるのだ!

 トンデモな世界なのに、笑って泣いて、誰かに自分を感じ、最後にはこう思える。

「これは私の物語」

 私はこの『特撮家族』で、小説家としての髙見澤さん、つまり「髙見澤俊彦」に興味を持った。そしてこれが3作目と知り、前2作『音叉』『秘める恋、守る愛』も読んだ。この2作についても後編で詳しく記したい。バリバリ面白かった。『音叉』は泣いたぞ!

 そして思った。THE ALFEEの音楽もそうだが、彼はきっと「好き」のアウトプットが抜群に上手い人なのだ。

 どんな風に作品を作っていくタイプなのだろう。そもそも、小説家デビューのきっかけはなんだったのか。あんな多忙な方が、どんな風に時間をひねり出して書いているのかも知りたい。興味は尽きない!

 思い立ったが吉日である。作家・髙見澤俊彦の魅力を、担当編集者の方々に聞いてみよう。よろしくお願いいたします!

 今回、お話を聞いたのは、髙見澤さんにはじめて小説を依頼した担当Mさん、そして、『オール讀物』で髙見澤さんの担当をしている、Iさん、Hさんである。

 まずは、髙見澤さんに小説を依頼したきっかけからお聞きする。

「『オール讀物』2016年11月号の『偏愛読書館』というコーナーに『父の本棚』というタイトルでエッセイを書いてもらったんです。その最後に、小説への思いを書かれていて。それがきっかけでした。小説執筆をお願いする時に、編集長と私と、マネージャーさんの棚瀬さんとで会ったんです。こちらから依頼するとはいえ、まだ一作も書いたことがない方が、何百枚にも及ぶ作品を書くことになる。それについて棚瀬さんにお聞きすると『髙見澤は書けます。これまで、歌詞を何百曲も書いているんです。書けます!』と仰って、なるほど! と思いました」(担当Mさん)

 この『父の本棚』、今も文春オンラインにて全文公開されているので読むことがでる。最後に確かに書いてある、小説への夢。運命の一文、ぜひその目で確認されたし!

2025.04.16(水)
文=田中 稲