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作家・高見沢俊彦の凄さ【後篇】
意外に慎重!? 『特撮家族』誕生秘話

さて、次は、私の大好きな『特撮家族』へと話を進める。よくあれだけのテーマがまとまりましたね。
「そうですね、『特撮家族』は、とくに事前の打ち合わせを丁寧にしました」(担当Iさん)
いやもう、そうでしょう、そうでしょう! でないと、あんなにうまく一つの物語にならないと思いますッ。私が前のめりで聞くと、Iさんから驚きの誕生秘話が飛び出した。
「『特撮家族』はもともと戦国武将好きの主人公と特撮映画好きの弟が、お父さんの遺した怪獣フィギュアをめぐって争うホームコメディになるはずだったんです。ところがいざ連載が始まると、初回からお父さんの霊が出現する驚きの展開に! お父さんが神道の研究者で、霊力を持った主人公だけには姿が見えるという設定が固まったことで、髙見澤さんが神田明神に『神様について取材したい』とおっしゃったんですね。急遽、取材に行き、熱心に神道を勉強された結果、そちらのパートがどんどんふくらんでいきました」(担当Iさん)
なるほど、盛りだくさんのエピソードの裏には、山盛りの取材と山盛りの変更と細やかな打ち合わせがあったのだ。しかも髙見澤さんは、一つ一つ確認されるという。
「たとえば実際の神様を登場させたときは『この書き方で大丈夫かな』とか、神田明神が空を飛ぶシーンでは『空を飛ばせてしまって大丈夫かな』とか、こまめに確認されますね。勉強熱心なうえに、連載媒体にも神田明神にも配慮してくださって、気配りの方だと思います」(担当Iさん)
「そういえば、『特撮家族』の連載中にコンサートがあり、楽屋にご挨拶に行ったら、こちらがコンサートの感想を言う前に『在原業平を出したいので資料を送ってほしい』といきなり話されて、慌てて資料を集めて送った覚えがあります」(担当Hさん)
「ありましたね。コンサートが終わって携帯の電源を入れたら、着信やショートメールがたくさん入っていて、マネージャーの棚瀬さんからでした。『髙見澤から話がありますから、帰らずに待っててください』って。何事かと思ったら『在原業平を出すアイデアを思いついたけど、書いてもいいですか』というお尋ねだった(笑)」(担当Iさん)
「スランプで休載、とかだったらどうしようかと思いましたね」(担当Hさん)
アイデアがひらめき、少しでも早く共有したいという、髙見澤さんのワクワク感が伝わってくるエピソードだ。
2025.04.16(水)
文=田中 稲