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作家・高見沢俊彦の凄さ【前篇】
作家・高見沢俊彦の凄さ【後篇】
女心がなぜここまでわかる?

物語の背景の描き方もさることながら、『特撮家族』は、登場人物全員の躍動感が本当に素晴らしい。私は主人公の美咲に、何度「アンタは私か!」とツッコんだことだろう。チョロさがリアル! 普通なら用心し、騙されるはずのないところで、男性の笑顔にやられ、クラッと騙される。「この恋アカンやつ」という決定的現場を見てしまい、スッ転んでケガをするシーンなんか、共感し過ぎてページを撫でてしまった。失礼ながら、60代(執筆当時)の男性が書いているとはまったく思えない。
なんであんなに空回りする妄想女子の気持ちがわかるんだろう。Hさんも、笑って頷く。
「長年、いろんな楽曲を書いてこられて、女性の心をわしづかみにしていらっしゃるから、心に根付いているのかもしれません」(担当Hさん)
確かに……!
さて、編集者の方々を巻き込んでの「髙見澤俊彦作品はココが面白い」トークは、まだまだ、後半へ続く。
その前に、もう一つ、この『特撮家族』のたまらない点を付け加えたい。幽霊となって出てくる父親の洋介と、唯一、洋介が見える美咲の交流だ。急にこの世からいなくなってしまった父が、「かしこみもうす~、かしこみもうす~」を合言葉に、ポンと出てきてくれるシーンは、温かくて、羨ましくて仕方がない。
自分も、死んだ父親とこんな風に会えればな、と思う。もう一度話したい。生きていた時より、素直にいろいろ話せるだろう。美咲と一緒に私も父と会話をする。
お父さん、ホントに幽霊となって出てきてくれてもええんやで。
かしこみもうす~、かしこみもうす~。
『特撮家族』の書籍は2023年4月5日に刊行されている。コロナ禍を抜け、4年ぶりに開催された。少彦名命奉祀(ほうし)150年を記念しての神田祭に合わせたタイミングだった。
今年も5月8日から神田祭が開催される。大人気アニメ『薬屋のひとりごと』とのコラボもあるそうで、かなり盛り上がりそうだ。
私は関西在住だが行ってみたい。もし行けなくとも、この日に合わせて、『特撮家族』のページをめくろうと思う。
踊る美豆良の髪をした少彦名命と、父の姿が見えるかもしれないから。

特撮家族
定価 1,980円(税込)
文藝春秋
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音叉
定価 847円(税込)
文藝春秋
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秘める恋、守る愛
定価 858円(税込)
文藝春秋
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2025.04.16(水)
文=田中 稲