この記事の連載

 上流階級がこぞって通ったサヴィル・ロウのテーラーに加えビスポークの帽子など英国で息づくクラフツマンシップの物語を知り、職人の誇りに敬意を表する。


時代に合わせ変化するサヴィル・ロウの今

 ジェントルマンの国、イギリスで生まれた紳士服の仕立て店、テーラーが集まるのがロンドンのサヴィル・ロウと呼ばれるエリア。立ち並ぶショップの店頭には、テーラーごとに旗が掲げられ品格ある雰囲気に満ちており、スーツを着こなした紳士が颯爽と通りを歩く姿が絵になる。実際、ハウスではどのようにして一着が作られているのか。サヴィル・ロウでかつて働き、現在東京で店舗を構える、テーラーの森田 智さんに話を伺った。

「スーツ作りは分業制で、お客様から注文をとるのがセールスマン、採寸や設計、裁断を行うのがカッターです。カットされた布はテーラー(裁縫師)や仕上げをするフィニッシャーなどへとわたり出来上がっていきます。私は修業時代、ジャケットのテーラーをしていて、カッターから渡されるいわゆる設計図をもとにひたすら縫うのが仕事でした。歴史ある店だと、昔のパターンや資料がいくつも残っていたり、熟練カッターがいたりと常に勉強ができる環境でした。ハウスに所属しないフリーランスの人も多く、皆さんプロ意識が高かかったです」

特別な時間が流れるビスポークの世界

 店によっては完成するまで2年待ち、金額も高額というサヴィル・ロウのテーラーは、2000年代に入ってくると店舗数が減り名門テーラーにも変化が求められるようになった。老舗の「H・ハンツマン・アンド・サンズ」では早い段階から既製服も販売し、近年はレディースの展開をしている。

 ヘッドカッターのマグダレナ・ハンズヴォーカー氏は、「女性のお客様は少しずつ増えてきて、自宅にいるようなリラックスした気持ちで服作りを楽しんでもらえるように心がけています。中には自分の体に合ったスーツを着ていると姿勢がよくなりパワーが出ます、とおっしゃる方もいて、作り手としては励みになります」と話す。スーツだけでなくワンピースやトレンチコートといった服もビスポーク可能だ。

 また、男性がメインのテーラー業界で活躍する女性カッター、キャロライン・アンドリュー氏(キャロライン・アンドリュー・ロンドン)も繊細な感性で男女問わず、顧客からの支持を得ている。

 「自分に合ったジャケットを羽織れば何かを成し遂げられるかもしれないと勇気がもらえることがあります。その後押しになるものを作れたら嬉しいですね」と、語る。

 身につけるもので心の内までが変わる。ビスポークにはそれだけの力がある。

●東京で出合えるビスポーク

森田 智(もりた・とも)

テーラー。文化服装学院メンズデザインコース卒業後、2011年よりサヴィル・ロウの「Kilgourアトリエ」で修業。フリーランスとして英国で仕事をし2014年に「SHEETS」を創設し、その後東京に工房兼店舗を開店。

2025.04.14(月)
文=梅崎奈津子
写真=志水 隆
コーディネート=田中敬子

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※この記事のデータは雑誌発売時のものであり、現在では異なる場合があります。

この記事の掲載号

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