真珠の養殖目的で建てられた“漁師手作りの小屋”
宿を出て港へ進むと、海上に木造の小屋がいくつも浮かんでいるのが見える。それぞれ桟橋がかけられ岸から10mほど沖合に係留されている。そのうちの一つを宿が所有しており、宿泊者はここで釣りをすることができるそうだ。

女将さんによると、もともと小屋は昭和30年ごろ真珠の養殖を行ううえで海上と陸を行き来するための中継地点として建てられたという。明治40年、日本で初めて真円真珠の養殖に成功した長崎県だが、昭和中期には上五島でも多くの漁師が真珠養殖に流れたそうだ。

中には真珠御殿が建つほど成功した漁師もいたそうだが、栄枯盛衰は世の常。真珠生育の悪化も重なってか、この地域での真珠養殖業は衰退したという。そして残された小屋が今に至るのだ。

小屋が辿ってきた漁業の変遷を感じながら中へ入る。
外から見るよりも中は広く、外光が差して開放感がある。棚に積まれた漁具はまさに漁師の作業部屋のイメージに当てはまるものだ。

冷蔵庫やテーブルも完備されており、暖かい時期は小屋で食事をするお客さんも多いそうだ。全体的にガレージ感漂う雰囲気は男心がくすぐられる。
中で作業をしている老夫は民宿の主人かずおさん。かずおばんの家の由来はこの「かずお」さんであり、「ばん」は五島で使われる言葉で「頼りになる兄貴」という意味があるそうだ。漁師は引退しているとのことで、今は宿の食事で提供される魚を調理したり、宿泊者に釣りを教えたりしているらしい。
しかし、一体この小屋のどこで釣りができるのだろうか……?
小屋に隠されたカラクリ
かずおさんに釣りがしたい旨を伝えると、おもむろに足元の床板を外し始めた。当然だが海面が露になる。

そしてそばへ椅子を設置するとなんとおひとり様専用の室内釣り堀が完成した。大胆すぎる……。
海をのぞき込むと鮮やかな水色で海底までは深く、表層から底の方まで魚影が確認できる。海面にはすでにネンブツダイがスタンバイしており、天然の釣り堀ができあがっていた。

さらに案内していただいたのは小屋の外側、係留しているボートの上でも自由に釣りをしていいそうだ。天気がいいときは港で釣りをし、荒天時は小屋で雨をしのぎながら釣りができるという。

今回のように天気が悪くても釣り場が確保できるのはありがたい。では早速釣具を用意して釣りを開始してみよう。
2025.03.14(金)
文=ぬこまた釣査団(大西)