語彙力がないのでアホっぽい感想になってしまうのだけど、めちゃくちゃおもしろかった。読み終えた後に泣いてしまった。悲しくて涙を流したわけでなく、あぁよかったと救われるような結末なので、泣いたあとにスッキリとする。読んだ後に感想を誰かに話したくなる、そういう作品なのだ。

「墓場に持っていけるのは、家族の顔だけなのかもしれない……」とは、直志の父の言葉だ。
 過去で活かせるものも、未来から持ち帰りたいものも、記憶だ。記憶した情報にこそ価値がある。あの世に持っていけて、価値があり、必要になるのも記憶なのだと思う。
 自分がいなくなる世界の何を心配して、何を願うか。どんな記憶を持っていきたいか。それがその人にとって一番大切なものだと、直志の父に教えてもらえた。

♦本の紹介
『マイ・グレート・ファーザー』(平岡陽明・著/文藝春秋刊)
時岡直志はある日、カメラマン廃業を決意する。かつては売れっ子だったが今や仕事はほとんどない。妻には先立たれ、一人息子はひきこもりになってしまった。もはやアルバイトのゴミ収集を本業にするしかないと観念していた。
 これが最後のカメラ仕事と腹を決め、出張に出た直志はそこで、決して逢うはずのない人物と出逢う。それは30年前に借金苦の末に自動車事故で死んだ父だった――。初めは他人の空似を疑う直志だったが、徐々に自身が1993年にタイムスリップしたことに気づきはじめる。しかもそれが父の死の4日前で……。

♦プロフィール
幡野広志(はたの・ひろし)
1983年、東京都生まれ。写真家。2010年から広告写真家・高崎勉氏に師事、「海上遺跡」で「Nikon Juna21」受賞。11年に独立し結婚。12年にはエプソンフォトグランプリ入賞。16年に長男が誕生。翌年、多発性骨髄腫を発病し、現在に至る。近年は、ワークショップ「いい写真は誰でも撮れる」、ラジオ「写真家のひとりごと」(stand.fm)など、写真についての誤解を解き、写真のハードルを下げるための活動も精力的に実施している。著書に『ぼくが子どものころ、ほしかった親になる。』『ぼくたちが選べなかったことを、選びなおすために。』『なんで僕に聞くんだろう。』『だいたい人間関係で悩まされる』『息子が生まれた日から、雨の日が好きになった。』など。最新著書は『うまくてダメな写真とヘタだけどいい写真』。

マイ・グレート・ファーザー

定価 1,760円(税込)
文藝春秋
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2025.03.12(水)
文=幡野広志