直木賞から22年。今年デビュー33年目を迎えた村山さんは、年始に新著『PRIZE―プライズ―』(以下『プライズ』)を上梓。「直木賞が欲しい」と吐露する女性作家・天羽カインを描いて反響を呼んでいる。

◆◆◆
「オールでの連載だったこともあり、“直本賞”などとごまかさず、思い切って“直木賞”でいこう、“オール讀物”も作中でそのまま出そうと決めていました。
連載第一回の最後に〈──直木賞が欲しい。/他のどの賞でもなく、直木が。〉と書いたら、同業者から『そこまで書いていいんですか』『どこまで書くつもりですか』と、驚かれましたね(笑)。
この天羽カインの心の叫びは、紛れもなくかつての私が抱いていたものです。同時にそれは、ずっとひた隠しに隠してきた自分自身の心情でもありました。
還暦をすぎ、それなりにベテランにもなったので、今回『プライズ』の取材を受ける中で、えいやと腹を括って『私自身、天羽カインと同じように直木賞が欲しかった。でも、なかなか手が届かなかった』と告白したのですが、担当編集者も『村山さん、あの頃そんなこと思ってたんですか』と目を丸くしてました。
私はこれまで文春で『ダブル・ファンタジー』『ミルク・アンド・ハニー』など、自身の性的欲望や、結婚、離婚といったプライベートなことを題材にする小説を書いてきましたが、よくよく考えると『賞が欲しい』というのは、私にとって『性欲がある』と告白するのと同じくらい、否、もっと恥ずかしく、ずっと胸の裡に秘めてきた感情です。でも、人に見せたくない感情は作家にとって鉱脈でもあり、うまく書ければ深いところに筆が届く小説になり得る。数ある承認欲求の中でも特に隠してきた『賞が欲しい』気持ち、お腹の中に蠢く恥ずかしい感情を作品に昇華したくて、『プライズ』を書くことにしました」
2025.03.10(月)
文=村山由佳