普遍的な石の力に魅せられる5,000年後を見据えたアート

設計者である杉本氏によると、江之浦測候所の本来の完成は5,000年後だといいます。
建物が風化し、石とトンネルだけが残る廃墟となったとき、どんな人間が何を意図して作られた場所なのか未来の人に想像してもらえたら、そんな狙いが込められているのだとか。
敷地内に足を踏み入れると、確かに、いたるところに多種多様な石が用いられていることに気づきます。
太古の記憶を留め、普遍的な美しさをもつ「石」を多用することからも、5,000年後を見据えた美しいものを創造する杉本氏の哲学が感じ取れます。その哲学に、作家である升味さんも共感できる部分があるといいます。

「各建築のなかに八百万の神への敬畏や石にエネルギーが宿る思想など、物を長く大切にするという日本特有の精神を垣間見ることができて、普遍的で変わらないもののよさを改めて感じました。
時が過ぎて風化してもなお美しいものを作りたいという杉本さんの思想にも共感するものがあります。何十年何百年と経ったとき、作り手の名前ではなく作品が残るというところに、やはり私も作家として憧れを抱きますね」


一つひとつの石の特徴にあわせて石垣の積み方を変えたり、新しい瓦を低温で焼き上げて古材のような柔らかい風合いを再現したり、建築群の細部に宿る技は、石工や宮大工などの職人によるもの。
江之浦測候上では、今日では継承が困難になりつつある伝統技術を未来に伝える場としての役割も果たしています。
2025.02.18(火)
文=平野美紀子
写真=宇壽山貴久子
ヘアメイク=宮本佳和
スタイリスト=渡邊 薫