写真展で見せたい、会心の一枚は?

――この2年のなかで、印象に残っている撮影エピソードはありますか。撮り損なっちゃったとかでも……。

 失敗は山ほどあります。なかでもショックが大きかったのは、めったにない貴重な場面を逃したこと。今思い返しても、身もだえするほど悔しくなります。

 その猫島は、島に渡る船の船長さんが猫たちのお世話をしていて。ある日、船長さんが島を出て買い物に行ったので、猫たちは別のいろんな家でごはんをもらっていたんですね。で、夕方くらいに船長さんが帰ってきたら、散り散りになっていた猫たちがすごい勢いで船長さんの家にめがけてダッシュしているところに遭遇した。

 しかも「手をあげて渡りましょう」みたいな子どものイラスト付きの看板の前を、たくさんの猫たちが一心不乱に横切っていったんですよ。もちろん手をあげずに(笑)。「すごっ!」と思って、急いでシャッターを切ったけど、全然ダメでした。肝心の猫と看板がうまく撮れなかったんです。

――シチュエーションを聞いているだけで面白いです。

 いつかちゃんと撮ってお見せしたいですね。前もって、船長さんに留守にしてもらう日を決めておくとかして(笑)。

――展示される作品のなかで、とくに気に入っている写真はありますか。

 猫と看板を撮れなかった島で、実はすごいのが撮れたんです。

 島の漁師さんが投げた魚の切れ端に、猫たちがぐわっと飛びかかっている写真なんですが、めちゃくちゃ躍動的な瞬間をパーフェクトに捉えることができました。猫島に撮影に行く前に、キヤノンのR1という、とんでもなくいいカメラを貸していただいて、そのカメラのおかげですね。

 猫って、何匹か集まっていても、一匹が必死な時はほかのコは傍観していたりとみんながひとつのものに夢中になる場面はほぼないんですよ。でもそのときは、それぞれの猫が意志を持って魚をめがけて躍動していて、「みんながこんなに本気な姿はめったに撮れない!」と感無量でした。

 すぐさま、そのカメラのモニターをiPhoneで撮って、編集さんとアートディレクターに送ったら、「すごい!」「オリンピックみたい!」と盛り上がりました。たぶん、見てくれた方にも驚いてもらえるんじゃないかなと。この写真も、死ぬまで使い倒します(笑)。

――写真展が楽しみです。やっぱり会心の一枚が撮れた時が、1番の喜びですか。

 最高に嬉しいです。猫写真家として独立して10年なんですが、けっこうモチベーションを維持するのがむずかしかったりもするんです。猫が好きだから、淡々と撮り続けることはできると思いますが。

 でも、心から納得のいく写真が撮れると、この先もっといい写真が撮れる気がするというか、続けていけば、誰も見たことがないような猫たちの姿を撮るチャンスがあるんだと思えて、モチベーションがぐっと上がりますね。

2025.02.20(木)
文=熊坂麻美
撮影=山元茂樹
写真=沖 昌之