「猫写真家」として大活躍中の沖昌之さん。しかし、30代前半までは写真嫌いで、自身を「なまけ者のポンコツだった」という。

 ある日突然脱サラし、猫写真家として歩みだした異色の経歴の沖さん。「絶対に定時で帰る」と決めていたという無名のサラリーマンに、いったいなにが――。

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――どうぞよろしくお願いします。重そうな鞄ですね。

沖昌之さん(以降、沖) カメラは常に持っていて……。入れ方が雑いんで、レンズとかもすごい傷ついているんですけど(と、中に入っているカメラを見せてくれる)。

――ずいぶん大きなカメラを、素のままバサッと入れているんですね。

 スポーツ写真を撮るようなキヤノンの一番ごつい機種なんですけど、撮影したいときにすぐ出せないと意味がないのでこんな風になってて。本当は僕みたいな人に使われることのないはずの高貴な生まれの子なので、こんな扱いを受けるとは思ってなかったと思います(笑)。

猫の撮影は「スーパースターを撮ってるようなもの」

――撮影のチャンスがいつ訪れるかわからないんですね。近年はSNSなどでも猫を撮って投稿する人が多くなりましたが、それだけ日常的に撮られている沖さんが見て「この人、僕より上手いな」「これは良い写真だな」と思うことはありますか?

 上手い人は山ほどいますし、脅威だと思います(笑)。というか、これまでも上手な人はいっぱいいたし、今だってどんどん新しい人が出てきて、すごいなと。

 自分はたまたまタイミングがよくて、当時はまだない着眼点があっただけかなと思ってます。

――「着眼点」というと?

 これを言ったら語弊があるかもしれないけど、正直、猫って誰が撮ってもかわいいんです。だって、スーパースターを撮ってるようなものじゃないですか。

 その中で僕は、猫の内面の変なところ、たぶん猫を飼ってる人なら「知ってる!うちの子もそれよくする!」っていうところを撮りたいと思ってやってて。で、そこがちゃんと「画」になっていたというところだけが、唯一、他の人との違いだったんじゃないかなぁと思っています。

2024.05.16(木)
文=小泉なつみ