沖 出版社の方が、分からへんけど、「頑張れ」って言ってくれたんです。応援されてるから逃げたらあかん、この人たちに対して結果を出さないと、というのはずっと思ってました。
自分じゃよく分からないけど、その人たちが僕の写真を「いい」と言ってくれている。だから、その言葉を信じてやるしかない、という感じです。
「『夢』とか言える人もちょっと信じられなかった」配送係を変えた人
――頑張り続けられる「才能」があった?
沖 いやぁ、お世辞にもないですね。もともと定時に帰る配送係を目論んでいたくらいですし、僕は本当になまけ者で、人付き合いも得意じゃない。なんならずっと一人で家に引きこもっていたいんです。
今日も旅から帰ってきたばっかりでぼうっとしてたかったから、仕事の電話がかかってきても、じーっと携帯を見てました。
――取りはしないけど、一応、電話は見るんですね。
沖 そう。でも、出ない。なかなか切らないなと思って、鳴り終わったらすぐにインスタは更新する、みたいな(笑)。
実際、あの頃は本当に、継続して努力する意味とかよく分からなかったし、「夢」とか言える人もちょっと信じられなかったです。夢って、もともと才能を持ち合わせた人が言えることであって、たいていの人はそんなところから遠い場所にいるし、自分もその一人であるというのも自覚していて。
でも、東京に出てきたときに拾ってくれた婦人服屋さんの社長が、夢をめっちゃ語るし、ものすごく努力する人で。はた目から見て才能の塊みたいな人なんですけど、失敗もする。でも、とにかくやり遂げる。最初はそんな彼女を否定的に見ていたんです。「熱いね~」みたいな。
「いま思えば本当に、嫌なヤツですね(笑)」
――斜に構えて見ていたような。
沖 そうそう、社長からも、「斜に構えて生きすぎ」って言われました。でも、自分がそういう側の人だと思ってたから、「お前に言われる筋合いないよ」みたいな。本当、嫌なヤツですね(笑)。
でも、社長は、自分で思い描いたデザインの洋服を届けて、それを着たお客さんが喜ぶ、というゴール設定で何度も何度も繰り返し、失敗してもやり続けてて。目の前でその姿を何回も見せつけられるうちに、これだけ才能の塊みたいな人も努力するんだなぁって素直に思ったんです。
パーンと辞めて外に出ちゃいましたけど、日々進化できるように継続してやれば、いつかは社長みたいに自分も何かできるのかなと思って、その後もずっとやってきた気がします。
〈なぜこの写真を撮れたのか?猫専門写真家に聞いた「シャッターチャンスを逃がさない」内幕〉へ続く
2024.05.16(木)
文=小泉なつみ