グローブやバットなどの野球のモチーフをかたどった、やさしい甘さのおやつ「野球カステラ」。神戸のお土産として昔から知られる「瓦せんべい」を作るお店が作り始めて、その歴史は100年ほど続いているそうです。

 神戸に暮らす人たちですら“神戸名物”とは気づいていなかった「野球カステラ」が、いまふたたび注目を集めています。昔ながらのお店を守りながらも「いま、おいしいと思ってもらえるもの」を作り続ける「手焼き煎餅 おおたに」を訪れました。


70年以上続く瓦せんべい屋さんが作る、昔ながらのやさしいおやつ

 神戸三宮駅から1駅、春日野道駅から歩いて5分ほどのところに「手焼き煎餅 おおたに」はあります。年季の入った「神戸名物 瓦せんべい」の看板やガラスの引き戸から感じられる、レトロな佇まい。店内に入ると、ふわぁっと甘い香りに包まれます。

 ひとくちサイズの野球モチーフのカステラで、材料は小麦粉、卵、砂糖、牛乳などで保存料は使っておらず、優しい甘さはたっぷりと入れたハチミツから。また、焼くときにごま油をひいているのと、贅沢にバターを使っているのが、おおたにさんの「野球かすてら」の特徴です。

 売り場のすぐ奥でカステラを焼いているのは、3代目店主の大谷芳弘さん。

 生地を一つひとつ焼き型に流し込み、ガシャンと焼き型を閉じて開いて。次々と可愛らしいカステラが、ころんころんと手焼きで生み出されていきます。

 お店の創業は1950年。芳弘さんの祖父から始まり、親子3代にわたって受け継がれてきました。“瓦せんべい職人の三羽烏”とも呼ばれるほどの腕前だったという初代。扱える人が少なかったという、本当の瓦サイズの大きな焼き型も使える職人だったそうです。

 野球カステラのデザインは、販売し始めたころから変わらないそう。焼き型のハサミの部分を作る職人さんが現在はもういないそうで、いま使っているものは、100年近く前のものだといいます。お店には、焼き型を使うガシャン、ガシャンという音が響きます。

 もともと50代まで会社勤めをしていて、お店を継ぐ気はなかったという3代目。55歳のときに2代目である父親が亡くなり、お店を閉めようとしたところ、母親に「ここにおりたい。あんたに焼いてほしい」と頼まれてお店を継いだそうです。

 「親父の弟子のところにビデオカメラ持っていって焼き方を覚えて。それで素人が始めちゃった」と何でもないように話す大谷さんですが、それから20年以上、お店を守り続けています。

2025.01.26(日)
文=狸山みほたん
写真=釜谷洋史