この記事の連載
- 界 奥飛騨【前篇】
- 界 奥飛騨【後篇】
北アルプスの名峰に囲まれ、日本屈指の源泉数と温泉湧出量を誇る奥飛騨温泉郷。その玄関口にあたる平湯温泉の「界 奥飛騨」は、コアな温泉ファンから愛される山岳温泉の醍醐味を存分に体験できる湯宿です。前篇では豊富な湯量を活かした温泉と、飛騨牛を贅沢に味わえる夕食をメインにご紹介します。
空しか見えない露天風呂がよかった理由
インバウンドでにぎわう高山市の市街地から、車・バスで約1時間。奥飛騨温泉郷の入口に位置する平湯温泉。山岳地帯ならではの鮮やかな四季、澄み切った空気と水、そして豊富な湯量を誇る温泉がコアな温泉ファンや登山客を惹きつけている一方、全国的にはまだあまり知られていない穴場でもあります。
そんなロケーションにある「界 奥飛騨」の最大の魅力は、やはり豊富な湯量を活かした温泉空間。大浴場の露天風呂のデザインは、奥飛騨の豪雪地帯によく見られる雪の回廊をモチーフにしたもので、頭上にぽっかりと穴が開いた特殊な形状です。
露天風呂なのに景色が見えないって……? と、一瞬戸惑いますが、結果的にこれがすごくよかった! 視界が制限されることで聴覚や触覚、嗅覚といったほかの感覚が開放され、温泉と自然との一体感が深まるのです。湯の流れる音に耳を傾け、肌にあたる感触を楽しみ、朝晩で変わる山の匂いを感じたりしながら、一種の瞑想状態に浸ることができます。
内湯には、源泉かけ流しの「あつ湯」と、心身ともにリラックスできる「ぬる湯」の2つの浴槽。泉質は中性で、美肌によいといわれるメタけい酸とメタほう酸を多く含む、肌に優しいお湯です。天井は夜空をイメージしたデザインで、さらなるリラックス効果を生んでいます。
中庭の足湯は開放感いっぱい
「界 奥飛騨」には、公道を挟んで東西の客室棟、湯小屋棟、トラベルライブラリーのある離れの4棟があり、その真ん中に足湯のある中庭があります。これは、ゲストが施設の内外を幾度も回遊することで、より広く深い温泉体験ができるようにという仕掛け。
中庭のデザインは、この地に古くからあった「石積みの風景」がモチーフ。傾斜に沿って湯の川と石積み、木塀と緑が連なり、足湯につかりながら目線を上げると、活火山のアカンダナ山など山岳温泉らしい風景が広がっています。
2024.12.31(火)
文=伊藤由起
写真=志水 隆、伊藤由起
写真協力=界