⑦波間の一艘(いっそう)に揺れる心――丿乀む(なやむ)
「丿乀む(なやむ)」というタイトル案を応募してくださったのは「馬のゆい」さん。
最初にこのタイトルを見たとき、編集部一同、正直なところ「何と読むのだろう?」と頭を悩ませました。調べてみると、「丿」(へつ)と「乀」(ほつ)は書道用語で、それぞれ左払い、右払いを表す漢字でした。そして、これらを組み合わせた「丿乀」(へつほつ)は、「小舟が波間に漂うさま」を表す熟語なのだそうです。
実は、人気クイズYouTuberであるQuizKnockさんの動画にも、同じ漢字を使ったタイトル案が登場していました。しかし「馬のゆい」さんは、この動画がアップされるより前、キャンペーン募集が始まってかなり早い段階で応募いただいていました。
まず熟語の知識に驚かされましたし、小舟が揺れるさまに人物の揺れる心を重ねて「なやむ」と読みがなを当てた発想はお見事。言葉遊びの要素もありつつ、ミステリーとしてどんな作品になるのだろう?と思わせてくれる、魅力的なタイトルだと感じました。
これらのタイトル案は、応募作品のごく一部です。すべてをご紹介できないのが残念ですが、ほかにも多くの印象的なタイトルが寄せられました。編集部一同、読者の皆さんの発想力と日本語の豊かさに、改めて感銘を受けました。
東野圭吾さんの「ガリレオ」シリーズは、直木賞受賞作『容疑者xの献身』を含む、累計1500万部突破の大人気シリーズ。ドラマ、映画では福山雅治さんが主人公の天才物理学者・湯川学を演じて大ヒットしました。
全10作中、短篇集は『探偵ガリレオ』『予知夢』『ガリレオの苦悩』『虚像の道化師』の4作。また『透明な螺旋』には短篇「重命る(かさなる)」が特別収録されています。ぜひガリレオの数々の名篇を読んで、内容やトリックとともに、タイトルの素晴らしさも味わっていただけたらと思います。
2024.12.23(月)
文=「文春文庫」編集部