織守 あこがれます。今日の三人は全員推理研に入ったことない人?
青崎 僕、明治のミステリ研究会。
織守 おお~。
青崎 入った理由は、英都大の推理研にあこがれたというのが6割ぐらいを占めております。ちょうど大学生の時、『江神二郎の洞察』が一冊にまとまったんですが、まさに今村さんがおっしゃったような、学生ならではの、学生だからこそ追える謎解きの話がたくさんあるんです。「除夜を歩く」なんて、江神さんとアリスのやりとりがすごくよくて。
織守 青崎さんの学生時代は、英都大の推理研みたいな感じでした?
青崎 全然まったくそんなことはなかったです(笑)。
自然体でやさしい読み心地
今村 もう一つ、有栖川作品には文章の魅力もあると思います。本格ミステリって、特に長編で難しい謎を扱おうとすると、読者に最後まで解かれたくないという力の入った作品が多くなる中で、有栖川作品って、無理して真相を隠そうという力みをあんまり感じない。自然体なんです。どんなに複雑な事件を扱っていても読みやすいし、逆に「そうか、ここまで書いても、案外見破れないものなんだな」と勉強にもなる。
青崎 同感です。不思議ですよね、「読者への挑戦状」を付した作品もかなりあるのに、「解けるものなら解いてみい」みたいなとげとげしい感じがない。文体の柔らかさもあるのかな。ツルッとしてて、おうどんみたいな読み心地。
織守 のどごしがいい。
青崎 そう。だからこそ、「次も次も」と読んじゃう。
織守 本当に読みやすくて、視点の優しさも気持ちいいんですけど、時々ドキッとするようなことが地の文に書いてあるじゃないですか。火村シリーズのアリスってジェンダーに言及することもあって、「自分がもし女性だったら男性なんて信じられない」なんてことをさらっと言ったりする。シニカルな目線が急に入ってきたり、ハッとする一行が書かれているのも、いいなと思うところです。
2024.12.08(日)
文=青崎有吾,今村昌弘,織守きょうや