青崎 いい編集者だ……(笑)。

 織守 今村さんはどうでした?

 今村 僕は普段から本格ミステリを主戦場にしているので、恐れ多いという気持ちはありつつも、やらなきゃいけないと。僕がお断りしても、結局は本格ミステリ畑の他の作家さんにその仕事が行くわけで、ここは受けなきゃいけないと覚悟を決めました。ましてや尊敬している有栖川さんのトリビュートだから、今の自分をぶつけるしかないと。

 織守 落ち着いてる。かっこいいな。

 今村 いやいや……僕もこの企画に自分の名前がなかったら、きっと織守さんにグチグチ言ったと思いますよ、「なんで僕じゃないんでしょう」って。で、東京創元社出身でもある僕には、江神ものを書くことが期待されているだろうと思ったので、そこも迷いはありませんでした。青崎さんはどうでした?

 青崎 僕もおふたりと同じように、これは断ったらもったいないという気持ちがまずあって、即「やります」とお返事したんですけど、その時、直観的に決めたのが、個を出すのはやめて、完コピ二次創作に徹しようと。最初の依頼の時点で「火村シリーズを書きます」とお伝えしたと思います。火村シリーズの一編として本家の短編集に紛れ込んでいても誰にも気づかれないようなところを目指そうと考えていました。

 

 今村 今回の青崎さんの「縄、綱、ロープ」の中に、「既存の小説のキャラクターを作者以外の誰かが著述することは、できると思うか?」というアリスと火村の問答があって、ニヤリとしました。

 青崎 そこも、火村シリーズってよくこういうことやるよな、という既刊の要素を拾った結果です。

 今村 ああ、なるほど。ありそう。

 青崎 既刊を研究し、このオチも、要素を拾いつつ考えました。

 織守 ですよね。私、結末の一行を読んだ時、「本家っぽい!」と思って、すっごいテンションが上がって。

 青崎 よかった(笑)。それが自分なりの愛の伝え方かな、と。

 今村 本当に有栖川さんの短編集に入っていても気づかないかもと思いましたよ。それくらい完成度が高い。

2024.12.08(日)
文=青崎有吾,今村昌弘,織守きょうや