推理研にあこがれて

 青崎 エラリー・クイーンより先に有栖川作品を愛読していた僕は、何よりそのパズラーの部分に惹かれました。推理小説の楽しみ方の下地を有栖川先生から学んだ気がします。さらに、火村英生しかり、江神部長しかり、作者と同じ名をもつ語り手の有栖川有栖しかり、シリーズ作品ってお馴染みのキャラクターが登場するだけで一気に面白くなるじゃないですか。そういうキャラクター造型の魅力も有栖川作品に教わりました。今村さんは、江神さんの魅力ってどんなところにあると思います?

 今村 江神シリーズには、僕の欲しいものが全部詰め込まれていたんじゃないかなあ……。キャラクターも推理の面白さももちろんですけど、推理研という仲のいいグループが事件に挑むところが好きなんですよ。今回、僕は江神のトリビュートを書こうと思って、まだ本にまとまっていない短編も読んだのですが、「推理研VSパズル研」(オール讀物2020年7月号/アンソロジー『神様の罠』収録)がすばらしくて。ライバルであるパズル研から出された問題を、推理研みんなで解いていくのが物語の発端なんですけど、途中から話が変わって、パズルの問題設定は設定として受け入れればいいのに、現実的に考えたらどんな状況でこんなことが問題になるんだろうと、自分たちで勝手に問いを設定して答えを探しに行く。こういうことをするから推理研って面白いんだよなと思いながら、この雰囲気を自分の今回の短編にも反映できないかと考えました。

 どうしても僕らは一人の犯人、一つのトリックを作ろう、解こうとしがちなんですけど、推理研を使ったらいろんな謎を作れる。江神ものにはそういう多彩な作品があって、「四分間では短すぎる」(小説新潮2010年9月号/『江神二郎の洞察』収録)では、落ち込んでいるアリスを元気づけるために、推理研の先輩たちが問題をでっちあげて推理ゲームにしたりもします。

 青崎 この推理研の雰囲気にはあこがれますよね。

2024.12.08(日)
文=青崎有吾,今村昌弘,織守きょうや