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月経についてオープンになったのはよいが、ひとつ不満がある

 月経ってどんな気分? 一定の期間、股間から血を流しつづけるのは、けっしてよい気分とはいえない。漏れもにおいも気になる。この気分を男にも味わってほしい、と、アーティストのスプツニ子!さんは、男に月経を経験させる「生理マシーン、タカシの場合。」を制作した。

 下半身に器具を装着して、漏れる血を月経帯が受け止める。スプツニ子!さんは、ソ連の人工衛星スプートニク号が世界で初めて打ち上げられたことに感激して、自分の名前につけるほどのサイエンス少女だった。女はね、月経期間中はこんな気分を味わうのよ、と男に体感してもらいたかったのだろう。

 と思っていたら、このところ「生理の貧困」キャンペーンが盛り上がり、月経中の女性がどんな気分を味わうか、何が不便か、どんな配慮が必要か、月経用品だってタダじゃない、コロナ禍で追いつめられてそれさえ買えないのがどんなにつらいか、使う枚数を減らすために外出しないようにしている……と、これまで女性が人前で口に出さなかったようなことが、つぎつぎに大手メディアの紙面に登場するようになった。

 調べてみたら外国には、月経用品に消費税の軽減税率をかけるところや無税にするところもあるらしい。月経用品は生活必需品、公衆トイレにトイレットペーパーを置くなら、いつ始まるかわからない月経にそなえて月経用品もトイレットペーパーなみに必置にせよ、それも無料にせよ、という要求がつぎつぎに出てくるようになった。

 ううむ、月経期間中はひとにそれとさとられないようにふるまえ、目に触れないように月経用品を始末せよ、月経について口にするのははしたない……と思われていた時代に育った者には、ふか~い感慨がある。

 月経についてこれだけオープンに話せるようになったのはよいことだが、たったひとつ不満がある。なぜ月経ということばがあるのに、生理と呼び替えるのだろう? 「生理」は人間の生理現象一般を指すことば。月経を「生理」と呼ぶのはあからさまに呼びたくないという忌避感の働いた婉曲語法だ。

 月経は「月のもの」、月の満ち欠けに女のカラダが反応している命の証だ。人間が動物であるということ、そしてそれは産むカラダであるということを、女も男も自覚するためには、とてもよいことばだと思う。

 初潮が来たとき。ンなこと言われたってオレ、女のカラダを持たないし、知らねえよ、と男性読者は感じるだろう。たしかに男性には月経の気分はけっして味わえないに違いない。だが、初めての精通でパンツを汚したとき。それだってどんな気分か、女にはけっしてわからない。

 親に告げたのか、親はどんな顔をしたのか、汚れたパンツはどうやって処理したのか……。それからあとだって、射精ってどんな気分なのか、股にあんな異物がついていたら歩きにくくないのか、立ち小便ってどんなふうにするのか、女にはよくわからない。

2024.11.28(木)
文=上野千鶴子