編集者のKさんとAさんに初めてお目にかかったのは『彼らは世界にはなればなれに立っている』を上梓した四年前の秋だった。それ以前の三つの長編、『犯罪者』『幻夏』『天上の亜』が現代社会を舞台にしたいわゆるクライムサスペンスであったのに対して、『彼らは世界に~』はまったく趣が異なり、いつの時代ともわからない〈塔の地・始まりの町〉で繰り広げられる物語だ。期待されている世界観でないことはわかっていた。案の定、上梓直後の読者の評は真っ二つに分かれた。
よりによってその『彼らは世界に~』について、しかも新型コロナ禍の最中という時期を押してインタビューしたいと連絡をくれたのがKさんとAさんだった。率直にいって少し変わった方々ではなかろうか、と思いつつ指定された貸切り喫茶店に向かった。
インタビュー中もその後の雑談も、息を継ぐ間もないほど話が弾んだ。お二人とも、当然のように多角的かつ批判的な視座を持ち、またそれを能弁に語る術を身につけておられ、正直、瞠目した。一緒に仕事をしたい旨を告げられ、喜んでお受けした。ただ、その時はすでに新聞連載の執筆が決まっていたので長く待っていただくことになってしまった。
このたびようやく約束を果たして『ヨハネたちの冠』という新しい舟を漕ぎ出すことができる。長編を書き始める際はいつもそうなのだが、「書きたいものを書く」というよりも「今、書かなければならないと思うものを書く」という心持ちだ。つまり、常にどこか切羽詰まった思いでいる。
今回のテーマは〈教育〉。私は〈洗脳〉の三種の神器は〈メディア〉〈宗教〉〈教育〉だと思っている。主要登場人物が常のごとく多いが、中心となるのは首都近郊のスーパー教育特区に住む三人の子供たちだ。柔らかな心を持つ個性的なアウトサイダーの子供たちに、秘密を抱えたホームレス、他人の名前を騙る謎の男、小箱を手渡して失踪する大学生、祖父に元戦犯を持つ現内閣府特命担当大臣まで多彩な人物が登場する。
戦時中でもあるまいし、学校の教育などで子供は洗脳されたりはしない。そう思う向きもあるだろう。だが、それは〈洗脳〉をどう捉えるかによって変わる。
それ以上は何を書いてもネタバレになるので控えることにする。これから七転八倒して考える部分も意外に多いと言い換えることもできる。それではお楽しみに。
2024.11.15(金)