――青春小説の旗手としてすでに多くの読者を得ている樋口さんから、まるで新人作家のような息づかいが伝わってくる。新たな道が目の前に開いた時の陶酔と興奮。
本書は新生・樋口有介の「第一作」といえるのかもしれない。
樋口 十六、七から作家になろうと思って、会社勤めもろくにしないで小説を書いてきました。最近は新人賞をとった人に出版社側がよく「お勤めは辞めないでください」って言うらしいけど、私は言われなかった、もともと無職だから(笑)。
昔、サントリーミステリー大賞の選考会の後で、どこかの新聞社の女性が「ご職業は何でしょうか」って訊くんですよ。「いや、職業はありません」と答えても、「新聞の記事としてそれじゃ困るんです」と懸命に食い下がるの。弱ったなあと思っていたらね。隣にいたイーデス・ハンソンさんが叱ってくれたんです。
「そんなことはどうでもええんや!」
今しみじみ、作家になれてよかったな、と思っています。
聞き手 「本の話」編集部
(初出:本の話2003年11月号)
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2024.10.30(水)