2024年10月10日からEテレで再放送がはじまった、TVアニメ『烏は主を選ばない』。第2話「ぼんくら次男」のストーリーには、阿部智里さんの原作「八咫烏シリーズ」の中から、外伝「ふゆのことら」(『烏百花 白百合の章』所収)に登場するエピソードも挿入されていました。
実は「八咫烏シリーズ」外伝には、本編に登場する多彩な八咫烏たちひとりひとりを照射した、魅力的な短編がずらりと並んでいます。アニメの再放送を記念して「ふゆのことら」を期間限定(~2024年11月15日まで)でふたたび特別公開。ぜひこの機会にお読み逃しなく!
八咫烏シリーズ 外伝
「ふゆのことら」
阿部智里
透き通った冬の蒼天に、鬨の声が吸い込まれていく。
空気はきんと冷たく、唇からは白い呼気が溢れているが、体中の血は沸き立っていた。
市場からほど近い広野の一角で向かい合い、ぶつかり合った両陣営は、いずれも十五に届かない少年ばかりである。
味方は四人、敵は十人。
――上等だ。
雑魚ほど群れたがるものだ。全く負ける気がしなかった。
奇声を上げ、こちらにまっすぐに突っ込んで来たのは、先日喧嘩を売ってきた総大将だ。
「市柳! さんざんでかい顔しやがって、今日という今日は容赦しねえ」
自分と同年代の割には大柄で太ってもいるが、常日頃、大人に混じって鍛錬している市柳にとっては大した問題ではない。
振り下ろされた棍棒を華麗によけると、鼻で笑って怒鳴り返した。
「でかい顔してんのはてめえの方だろうが。おウチ帰って鏡を見ろや不細工野郎」
「あんだと、てめえが言えた面かよコラァ」
「やんのかコラァア」
うおおお、と叫んで再び武器を振り上げた敵を嗤い、電光石火、市柳は相手のふところに勢いよく飛び込んだ。思いがけず接近され、目を大きく見開いたその顔に「馬鹿め」と呟く。
市柳はこぶしを鋭く振り上げると、たるんだ顎にガツンと一撃を食らわせた。
2024.10.22(火)