そして、その父とよく似ている長兄と次兄もまた、郷民からの信頼は厚かった。

 長兄は郷長の跡継ぎとして既に真面目に働いているし、次兄は上級武官を養成する勁草院を出た後、現在は中央で宗家近衛の任を与えられている。

 北領は人材を自領内で育てることに重きを置いており、腕に覚えがありさえすれば、ただの兵ではなく武官になる道が設けられている。その中でも特に優秀な者が行く場所こそ、勁草院なのである。

 そんな兄二人に対し、未だ将来を決めかね、同じような年頃の郷民と徒党を組んで遊びまわっている問題児の末っ子が、市柳であった。

「お前も元服して将来を考える時期に来ているんだ。自分のことなのだから、少しは真剣に考えたらどうだ」

 父親に低い声で諭され、市柳はむうっと口を尖らせる。

「放っといてくれよ。俺だって、色々考えているんだから」

 本来なら、父や長兄の手伝いをするため郷吏を目指すか、次兄のように上級武官を目指すかしなければならないのだが、どうにも決めかねているのである。机仕事など真っ平ごめんであるが、かと言って、このまま次兄のあとを追うように勁草院に入らされるのも面白くなかった。

「親父に向かって随分偉そうな口だな。考えがあるってんなら聞かせてみろよ、ほら」

 その場しのぎは許さねえぞ、と凄む次兄は、先ほど市柳を張り飛ばした張本人である。久しぶりに帰省したはいいが、市柳の喧嘩ばかりの素行を聞いて、頭に血が上ったらしかった。

 だが市柳からすると、三兄弟の中でも特に柄の悪い次兄と同じ道を歩むのかと思うと、どうにも癪でその気になれないのだ。兄には、弟が将来を決めかねている元凶は自分なのだと自覚してほしいものである。

「ええと、まず、郷吏にはならない」

「だろうな」

 お前にそんなおつむはない、と長兄におおまじめに断言されて腹が立ったが、あまり有効な反論が思い浮かばないので、それは甘んじて受け容れることにした。

「なら俺みたいに勁草院の峰入りを目指すんだな?」

2024.10.22(火)