この記事の連載
- 入浴は、善か悪か? 清潔不潔の人間史【ヨーロッパ篇】
- 入浴は、善か悪か? 清潔不潔の人間史【日本篇】
「厚い垢が肌を守る」というトンデモ医学も
こうした入浴悪の考え方は、厚い垢が肌を守り毛穴を塞ぐことが悪疫を防ぐと言う“医者の推奨”が後押ししたわけだが、そんなトンデモ医学が否定されるのが19世紀。
皮膚も呼吸し、毛穴を塞ぐことが健康に反するとの真逆の事実が医学的に証明され、だから入浴は悪ではない、さあお風呂に入りましょうと今更のように提案されるのだが、悲しいかな人間は長年の習慣を簡単には変えられない。まずそういう環境にない上に、風呂のイメージがあまりに悪かったためだろう。
入浴習慣が始まるまでだいぶ時間がかかるのだが、皮肉にもその重要性を教えたのはユダヤ人。そもそもキリスト教が入浴を禁じたのも、体の穢れを問題視するユダヤ教への反発からで、伝統的に入浴習慣を持つユダヤ人が感染症にかからないのを見て、ようやく納得。
でも歴史上ここまで常識がひっくり返ることってあっただろうか。不潔が正しく清潔が悪、その間違いが正されるまで長い長い時間がかかったのは、信仰や風評が時にとてつもない被害をもたらす人間社会の怖さを象徴している。
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齋藤 薫 (さいとう かおる)
女性誌編集者を経て美容ジャーナリスト/エッセイストに。女性誌で多数のエッセイ連載を持つほか、美容記事の企画、化粧品の開発・アドバイザーなど幅広く活躍。CREAには1989年の創刊以来、常に寄稿している
Column
齋藤 薫 “風の時代”の美容学
美容記事の企画、化粧品の開発・アドバイザーなど幅広く活躍する、美容ジャーナリスト・齋藤薫が「今月注目する“アイテム”と“ブランド”」。
2024.11.18(月)
文=齋藤 薫(美容ジャーナリスト)