奈緒 それはこれまでの現場で学んできたことだと思います。上京してまだ間もなかったころ、長編映画としては2本目に出演した映画『リングサイド・ストーリー』(2017)の現場で、私は台本を読みながら「自分とは違う誰かにならなきゃ」とずっと考えていました。そのときの役は自分とは少し離れたものだったんです。

 それで試行錯誤していたところ、武正晴監督が「ちょっと読んでみて」と言ったので目の前で台本を読んだら、武さんは「そんな声が出るんだ」とか「面白いからそれを使ったら」とか言ってくださって。そして「そうやって台本のなかで、どんどん自分を探していくんだよ」とおっしゃったんですね。それからは誰かになるのではなく、まず自分を見つければいいんだと考えるようになりました。

人を理解するために大事なこと

――『傲慢と善良』では、人を理解しようとすることの大切さが描かれています。この作品を通して、人を理解するために大事なことはどんなことだと感じましたか?

奈緒 やっぱり、まずは自分を理解することですよね。そして自分の価値観というものを理解する。価値観の違いという言葉がありますけど、じゃあ自分の価値観を誰かに伝えられるかと言ったら、私はまだその言葉が足りていないなって。

 だから自分の価値観を人にちゃんと伝えられるようになりたいと、『傲慢と善良』に取り組むなかで思いました。どんなに不器用でも不細工でもいいから、伝えることを諦めなければ、それが誰かと理解し合うことにつながるんじゃないかという気がします。

撮影 深野未季/文藝春秋

2024.10.21(月)
文=門間雄介