母の知らない私

――お母さまはなぜ反対していたんですか?

奈緒 このお仕事は、夢を持つたくさんの人のなかでも、本当に限られた人だけが機会をいただける世界ですよね。努力をしたからといって、その努力が実るかどうかわからない。その荒波のなかに自分の娘を送りだすことが怖かったんだと思います。それは娘を守りたいという気持ちでもあったはずなので、いま思えば愛情だったんでしょうね。

 あとになって聞いたことですが、母から「私の前でやってみせてよ」と言われて、ワークショップでやってきたお芝居を披露したことがあるんです。そのとき、いままでに見たことのない私の姿を見て、反対していた気持ちが少し揺らいだって。母が知っている私なら不安だけど、もしかして必死で夢を追いかけているのは、母の知らない私なのかもしれないと思ったことが、母の気持ちを変えるきっかけになったと聞きました。

上京直後は社員の仕事も

――上京直後は当時の事務所で社員の仕事も兼務していたんですよね。

奈緒 はい、マネージメントの仕事のお手伝いをしていた時期もあります。

――オーディションでうまくいかないことも多かったそうですが、つらい時期でしたか?

奈緒 そうでもなかったんですよね。お手伝いをする時間はとても楽しかったですし、どちらに行こうかと揺らぐくらいでした。そういうかたちでお芝居に携わる道もあるのかもしれないなって。でもその時期にいろいろ考えて、いちばん好きなのはやはりお芝居だし、思いきりやったと自分で言えるまでお芝居をがんばってみてから、他のことを考えてみてもいいんじゃないかと思ったんです。

――じゃあ、芝居以外の仕事に触れることが、芝居に対してプラスになって。

 

奈緒 そう思います。いままでを振りかえると、なるべく好きなことを選択してきたと思うんです。ただ、どうしても好きなことだけでは済まないというか、我慢しないといけないことも付いてまわるので、つらいと感じるときもあって。

2024.10.20(日)
文=門間雄介