『虎に翼』寅子と『ナミビアの砂漠』カナが似ている

『虎に翼』を最終回まで見て、寅子が誰かに似ている気がしてならなかった。それは第77回カンヌ国際映画祭の国際映画批評家連盟賞を受賞した映画『ナミビアの砂漠』の主人公・カナ(河合優実)であった。

 カナは少子化で貧しくなる一方の日本にはもはや何も期待できず、ただ生存するためだけに日々を過ごしている。そのためか非常に本能的で、だらしなく、抑圧されていて、ちょっとしたきっかけで怒りが止まらなくなる。この傍若無人さは、新しい主人公像であった。寅子もまた、本能的で、だらしなく、よく怒り、悪びれない。寅子やカナみたいな人物が「令和」の主人公なのだろう。

 

 吉田恵里香は1987年生まれ。いわゆるゆとり第1世代にあたる。つまり社会が勝手に変更した教育システムに翻弄された最初の世代であり、勝手に「ゆとり」などと呼ばれてそれこそ怒りを覚えてきたのではないだろうか。

『ナミビア~』の監督・山中瑶子は97年生まれ。ゆとり世代後期にあたる。そして吉田も山中も「失われた30年」のど真ん中で生きてきた。

 そして、これからの日本を担っていくのは彼女たち以降の世代なのである。

 偶然だろうか、『虎に翼』がはじまって1ヶ月経った2024年5月17日、NHKがインターネットを通じて番組などを提供することを必須業務とする改正放送法が成立していた。稲葉延雄会長は会見で「放送を主な業務としてきたNHKにとっては、まさに歴史的な転換点を迎えるということになる」と発言。NHKにとって大きな法改正であり、ますますネットユーザーを意識した番組作りが求められる。

 吉田、山中世代はまさに大事にしないといけない層なのである。

朝ドラは『虎に翼』以前以後に分けられるか?

 ここで、冒頭の、『虎に翼』は朝ドラを以前以後に分けられる作品になったかという問いである。答えはイエスだろう。『虎に翼』は歴史的転換点に誕生した朝ドラになった。

2024.10.14(月)
文=木俣 冬