うどん文化を考える1億年のジオ・ストーリー
どうして香川県はうどん県になったのだろうか。長谷川先生の解説は、1億年前からはじまる。「まず、うどんに欠かせないのは塩。香川県は入浜式塩田が築造されて、製塩産業が栄えました。入浜式の塩田に必要なのは塩を分離しやすい砂浜で、そのもととなるのは1億年前のマグマ活動によってできた花崗岩です」。1億年前といえば日本列島がまだ大陸の一部だったころ。その後2000万年前から日本海ができはじめ、1400万年前以降に四国山地が隆起、300万年前に讃岐山脈ができて、香川県は雨があまり降らない平らな扇状地となった。
それから少雨の扇状地という強みを活かして小麦の栽培がはじまる。扇状地には伏流水が流れ、きれいな水にも恵まれた。
さて次に考えるのは、うどんつゆの材料。塩を主原料とする醤油が醸造されるようになり、瀬戸内海で獲れるカタクチイワシをイリコ(煮干し)に加工して、味のベースとなる出汁とした。1万年前にようやく「海」となった瀬戸内海。燧灘にぽつんと浮かぶ伊吹島で生産されるイリコ「伊吹いりこ」は、おいしい讃岐うどんの出汁に欠かせない。
うどん麺の原材料である、塩、小麦、それから水。つゆのための醤油とイリコ。讃岐山脈が隆起し、陸だったところに水が入り込んで海となったという1億年にわたるジオ・ストーリーが、うどん県誕生の秘話というわけだ。
2024.10.11(金)
文・写真=請川典子