荒ぶることがほとんどなく、いつも静かに寄せては返すゆるやかな波のリズム。忙しい毎日を送る現代人の心に、瀬戸内の風景はやさしく寄り添う。瀬戸内海は本州と四国、九州の陸地に囲まれた狭い海域にたくさんの島があり、そのことが波のうねりを小さくし、この穏やかな美しさをつくりだしている。

 陸から眺める瀬戸の海もきれいだが、海から見る陸の景色もまた麗しい。瀬戸内海でクルージングアクティビティをおすすめするゆえんだ。そして海岸線にできた地形は、ハマチの養殖を成功に導いた。大地の成り立ちに根差した食文化を巡る旅、「ジオ・ガストロノミーツーリズム」を提唱する香川大学特任教授の長谷川修一先生と一緒に、香川県にある小さな港町、引田(ひけた)の地を探訪しよう。

まるで“ウユニ塩湖”! 瀬戸内海の絶景と食文化に出会う旅へ【瀬戸内ジオ・ガストロノミー】
「和三盆糖」と「讃岐うどん」はなぜ生まれた? 大地の歴史から知る真実【瀬戸内ジオ・ガストロノミー】


海からしか見ることができない珍しい地層

 ブルンとエンジンを震わせてボートが動き出すと、心地いい潮風が頬を撫でる。引田の沖はおもしろい地層を見ることができるため、ジオサイト(地質の名所)を巡るクルージングが人気だ。

 引田港を出ればそこは播磨灘。島影は遠く、「灘」らしい平らな海の上を滑るようにすすむ。やがて左側に、茶色と白の岩石が重なっている岩壁が見えてきた。

 「これは、引田不整合と呼ばれています。下側の白い岩石は1億年前に地下の深いところで冷え固まってできた花崗岩。褐色のところは7000万年前ごろから堆積した和泉層群という地層です」と長谷川先生。長い時間をかけて風化と堆積、地殻変動による隆起や沈降を繰り返して今があることを、ジオサイトは教えてくれる。

 もうひとつ、見逃せないジオサイトがあるという。見えてきたのは、白と黒のストライプ。

 ここは花崗岩のマグマが冷える途中でできたひび割れに、玄武岩質の黒いマグマが入り込んでこのような縞模様になったという。

 ふたつのジオサイトを巡る約1時間のクルージング。ボートを降りたら、古くから風待ちの港として栄えたレトロな引田の町を散策してもいい。

協力 NPO法人東かがわ観光船協会

https://www.hk-kankousen.com/

2024.10.11(金)
文・写真=請川典子