食を通して旅先の文化を知る「ガストロノミーツーリズム」という旅のスタイルは、知的好奇心旺盛な旅人の心をくすぐる。そして旅に出て、新たな疑問を抱くのだ。「どうして、この地でなければならなかったのか」と。その答えは「大地=ジオを知ること」に尽きる。

 食文化の背景をジオの視点から深掘りしようとするのが、香川大学特任教授の長谷川修一先生。地質学のエキスパートである長谷川先生に、香川県の食文化にまつわるふたつの謎をひもといてもらった。

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和三盆糖の産地がなぜ香川県に? 

 上品な甘さとほどけるような口どけにファンが多い干菓子、和三盆。その原料となるサトウキビの産地は、香川県と徳島県の一部に限られる。江戸時代から和三盆糖製造の技術を受け継ぐ、香川県の三谷製糖がある相生地区もそのひとつだ。「このあたりは、なぜかお米がうまく育たなかったんです。だから砂糖の生産をするために、サトウキビ栽培をはじめました。江戸時代、砂糖は貴重なものでしたから。それが私たちの家業のはじまりです」と、三谷製糖のご主人は言う。

 ちなみに相生地区から車で20分ほどのところにある水主(みずし)地区は、有名な米どころ。2024年は、毎年11月に皇居で行われる新嘗祭に献上する米が生産された。

 地理的に近い相生と水主、この違いは何だろう。長谷川先生に尋ねると「地質、つまり大地の成り立ちが違うんですよ。三谷製糖がある相生地区は、讃岐山脈から流れてきた馬宿川の扇状地の礫(石ころ)が堆積した土地で、水はけがよすぎて米作りに向かない。一方で、水主米のエリアは讃岐山脈の手前の花崗岩の丘陵から流れる与田川が運んだ砂や泥が堆積した土地で水もちがよく、水田向きの土地というわけです」。

 適度な水と、水はけのよい地質はサトウキビ栽培に必要だが、サトウキビが採れるからといって和三盆糖ができるわけではない。汁を搾ることからはじまり、煮詰めては冷ますことを繰り返し、何度も練り上げて和三盆糖ができるのだ。三谷製糖では、江戸時代に45年の歳月をかけて今の製法を確立させたという。先人の知恵と工夫、そして伝統技術を継承する努力を感じながら、この美しい一粒を味わいたい。

和三盆 三谷製糖羽根さぬき本舗

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2024.10.11(金)
文・写真=請川典子