自分から余計なものを取り払った姿が今回の役
――趣里さんが主演をつとめた映画『ほかげ』の塚本晋也監督がインタビューで、「趣里さんは憑依型の俳優だ」とおっしゃっていました。今回、役を憑依させるために実践したことはありますか。
到底理解し切れないくらい難しい役柄だとも感じていますが、裏を返せば、演じる上ではすごく振り幅があるということ。自分の直感や衝動に任せて動いているように見える亮子も、実は対峙する人々からもらうものによって動かされているんですね。だから亮子として、一緒に演じる皆さんにどこか乗っかる気持ちでもいます。
人からどう見られるのかとか、これを言ったら踏み込みすぎているかなとか、自分の立場がこうだからとか、時代や周りを気にして躊躇している自分の今の状態から一歩踏み出して、むき出しの状態になってみるのが亮子に近づくいちばんの方法なのかもしれない、と思い始めているところです。
――趣里さんがこれまで演じられた役は、映画「生きてるだけで、愛。」の寧子やドラマ『ブラックペアン』の猫田など、言葉を感情表現の手段にしない人物が多いですね。趣里さんご自身は、自分の感情は言葉にするタイプですか?
喜びの感情は素直に伝えられるけれど、負の感情はなかなか伝えられない。意外と我慢しちゃうタイプで、心配が募っていってしまうんです。そんなときは、話せる人にだけひっそり話して、時が過ぎるのを待ちます。すると、あるときふと「どうでもいいかもしれない」という瞬間が訪れる。若い頃は、たった一つの小さな出来事でこの世の終わりだ! と絶望していたけれど、歳を重ね、こんなことで終わるわけがないと思えるようになりました。
2024.10.01(火)
文=藤井そのこ
撮影=平松市聖
ヘアメイク=スズキミナコ
スタイリスト=中井綾子(crêpe)