バイトの面接に落ちる・税金の支払いに追われる・取引先と揉める・慣れない新人研修を任される。そんな身近な“トラブルばかりの日常”と、斬り合い・殴り合い・銃の撃ち合い・死体処理など、“まったく身近じゃない非日常”を、絶妙なユーモアの会話劇と格闘アクションと共に描いてきた阪元裕吾監督。
2021年の『ベイビーわるきゅーれ』が大ヒットした阪元監督だが、今年の9月27日には最新作『ベイビーわるきゅーれ ナイスデイズ』の公開、そしてテレビ東京でドラマ『ベイビーわるきゅーれ エブリデイ!』の放送も始まっている。
インタビューの後編では阪元監督のパーソナルな部分に迫り、令和を代表するフレッシュなバランス感覚と映像センスのルーツを紐解いた。
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逆境でもやりたいことを諦めなかった青春時代
――高校時代は演劇部に所属していたと聞きました。納得できなかったことも多かったそうですが、当時の思い出を伺いたいです。
阪元 いまはどうか知らないですが高校演劇の空気って結構独特で、全国大会に行くような劇ってもう完全に決まってたんですよね。「こういう台本が全国行きます」みたいな。すっごくわかりやすく簡単に言ってしまえば、「社会的」なテーマが入ってたり、高校生の等身大の悩みが描かれたりのどっちかみたいな。僕としては、お笑いトリオの東京03さんのようなコントに近い作品が作りたかったのですが、エンタメ度の高い脚本はあまり評価されなかったので、なかなかソリが合いませんでしたね。
そんな折にギレルモ・デル・トロ監督の『パンズ・ラビリンス』という映画に出逢いまして、社会的なメッセージをいかに入れながらどうエンターテイメントやジャンル映画をやるかというという姿勢に感銘を受けました。
――とはいえ、今の邦画界で洋画的なアプローチやジャンル映画的なこだわりを通すというのは、ビジネス的になかなか険しい道のりですよね……。
阪元 大学で映画を学んでいたときも、アクションやホラーといったジャンル映画に対する風当たりは強かったですね。「アベンジャーズが好き」ってだけで「マーベル組」なんて揶揄されたり。アクション映画やホラー映画といったジャンル映画やコメディは賞レースにもあまり引っかからないですし。そんな中でキャリアを積むには、どうしても賞レースで評価されやすい人間ドラマ作品に照準を合わせるという考えはあると思います。
だから、アクション映画にもそうした日本的な風土に落とし込む努力とアイデアが重要だと思ったんです。僕の作品で言えば、殺し屋が日常のすぐそばにいるような世界観を作り、作品ごとにそれをモキュメンタリー調で描いたり、ゆるい日常モノで描いたりしてなじませていきました。
2024.09.27(金)
文=むくろ幽介
写真=石川啓次