――やっとつかんだ主演作で、なんとか結果を出したいという気持ちもありましたか?
瀧内 そんなことを考える余裕はなかったです。普通は映画の主役だと、なんとしてでもこの作品でがんばろうと思いますよね。やってやるぞみたいな。でもこの作品に入ったときに、そういうことではないなと思いました。当事者にはなれない、でも当事者のように見せないといけない。毎日、死にもの狂いでしたね。
監督から「演技をするな」と言われて
――そんな状況だったからこそ、あの演技が生まれたのかもしれません。
瀧内 廣木さんからは「演技をするな」と何度も言われました。でも演技をしないということがわからない。「そのままでいればいい」「ちゃんと聞いて」と言われるけど、その意味がわからない。その役としてちゃんと聞くという感覚が、私のなかにはまだなかったんです。
あらためて考えると、あの映画にはあのときの自分が映っていると思います。演技をしたというより、映し出してもらったというほうが近いかもしれません。むしろ演技は必要ないと、削ぎ落とされていったんでしょうね。カメラはずっと回りつづけていて、私はどこを切り取られているのかわからない。生身の自分が動物のようにそこに映っていただけだと思います。
事務所を辞めて新たなフェーズへ
――『彼女の人生は間違いじゃない』は絶賛を受けましたが、その後、高い評価を得る2019年の映画『火口のふたり』まで少しブランクがあります。なにがあったんですか?
瀧内 『彼女の人生~』のあと、当時の事務所を退社したんです。仕事がうまくできなくなってしまったんですね。現場でどうセリフを言えばいいのかわからない状態になってしまって。たぶん恐れとか、いろいろなことがあったんだと思います。
それで演技の面白さを再び味わいたいと思って、アクティングコーチの方に付いて、イチから勉強しなおしました。現在の事務所に移籍したのも、新たにキャリアを重ねていこうと思ったからです。
2024.08.13(火)
文=門間雄介