天明屋尚や山口晃、須田悦弘、会田誠、村上隆など、近年の日本の現代美術のひとつの傾向として、手法はさまざまながら、日本の古美術から引用、再編集した作品が増えている。野口哲哉もまた、そうした流れの中で脚光を浴びるようになった若手作家の一人だ。
右:「Talking Head(部分)」 2010年
身の丈4寸ほどの侍たちがまとう、驚くほど精巧に作られた甲冑。長く戦場で主の身を守ってきた歴戦の武具らしく、いずれも古色を帯び、小札を威す糸はほつれ、当初は鮮やかだったはずの色も褪せている。侍のほとんどが壮年を過ぎた男たちで、わかりやすい喜怒哀楽の感情をその表情から伺わせることはなく、時に哀しみや諦念のような、時に言葉にはしない決意のような、レオナルド・ダ・ヴィンチ《モナ・リザ》のごとき曖昧な面がまえで、観客を見返している。
「精巧に」と書いたが、室町時代末期から江戸時代にかけての武具に関する先行研究を丁寧に渉猟し、美術館が所蔵する甲冑の補作、解説執筆などのアルバイトまでしている野口の「考証」は微に入り細を穿ち、その甲冑は合戦史の研究者が舌を巻くほど真に迫っている。そうやって細部にわたる「本物らしさ」を確保した上で、大筒状の推進装置を背負って宙を飛ぶ侍や、シャネルのロゴマークを白革の胴に入れた侍(戦功によって主君から海外ブランドのバッグと紗練〈しゃねる〉姓を賜ったことによる)、あるいは摂津の国人が愛猫用に作らせたという猫鎧を制作、しごく真面目に大ボラ話を展開しているのだ。
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2014.03.29(土)
文・撮影(会場風景)=橋本麻里