作品のインパクトは絶大で、すぐに人気を博すようになり、国内外でいくつもの展示がなされていく。
ところが2006年の個展を最後に、加藤の作品発表は途絶えてしまう。次にまとまったかたちで展示を観られる機会は、今展までやって来なかった。じつに18年のブランクが生じたのだ。
そのあいだ何をしていたのか。創作の手を止めていたわけではない。ただつくり方の方針を転換しただけである。
「自分で勝手につくった枠組みは捨てよう」
「以前は『アートとはこうあるべき』みたいなものを頭のなかに浮かべて、そこへ近づこうと必死に歩いていくイメージでつくっていました。でもしばらく続けていると、疲弊して限界を感じてしまった。
だれかに強制されたわけでもないのだから、自分で勝手につくった枠組みは捨てよう。そう決めて、期限やゴールを設けず真剣に好きなことにまみれ、遊ぶことをしてみるようになったんです。
故郷の三重県に家族と住んで、世間的には引きこもっているような生活ですが、自分なりに一所懸命遊んでいました。それが私にとっていちばん無理のない創作のかたちだと信じながら」
せっせと「遊んで」いるうち、いつしか18年の月日が経っていた。その成果のすべてが、今展に流れ込んでいるわけだ。
「このあいだに私が目にしたりかたちに留めてきたのは、世界中のどこにでもあるようなものごとばかり。たとえば、息子がふとした拍子に両手を合わせた様子を石に描いた作品は、たまたま見かけた光景を描き留めていますが、この手が何かによって損なわれたりしませんようにと願いながら筆を動かしました。そういう親の気持ちなんて、生活の数だけあるだろうと思います。
人の普通の営みを拾い集めて、この展示はできています。観てくださる人も、ここで自分の生活や周りにいる人のことを、ふと思い浮かべてくれればうれしいです」
18年にわたり生活のなかから拾い上げた宝物のような瞬間が、室内にぎゅっと詰まっている。だれの心にも、きっと響くところのある展示だ。
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加藤美佳展
小山登美夫ギャラリー六本木
6月22日~7月20日
www.tomiokoyamagallery.com
2024.07.19(金)
文=山内宏泰