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年齢とともに早起きになるのは体内時計の“ある変化”が理由?

 例えばクマは、雪解けの春になると子連れで目撃されますが、冬眠中の冬場に出産をします。秋にシベリアから来る渡り鳥は、春になるとまたシベリアに帰ります。植物にしても、春に植えられたイネは秋に一斉に実りの時期を迎えます。春になれば桜が開花します。ここには季節を示す時計が関わっていて、24時間を示す体内時計と関連しているものの別の現象だと捉えられているのです。

 動物の受胎や繁殖といった定期的に実行される活動も季節を示す時計と関わっていて、周期を作っていることがわかり始めています。人間もふだんは意識できなくても、季節の変わり目に眠たくなる、冬場によく眠れるなど、知らず知らずのうちに内側の時計が外側の環境変化を察知し、季節の移ろいを体感することがあるでしょう。生き物の体の中には、外部環境の変化に内部をあわせていくシステムが備わっているのです。

 話を24時間で一巡りする概日時計に戻すと、体内時計の存在を最も意識できるのは、睡眠と覚醒のリズムが崩れてしまった時かもしれません。時差ボケや不眠症といった体内時計の狂いは私たち現代人の生活とも無縁ではありません。

 ヒトの体内時計は、例えば一晩徹夜をしてもたしかにリズムが元通り回復するのですが、その予想外の出来事がいつもの出来事になってしまうと、別のモデルが形成されてしまいます。具体的には、入眠と起床の時間が一定でなくなり、乱れてしまうことになります。

 あるいは、ふつう人間は、年を重ねていくとだんだん朝早く目覚めるようになりますが、これは体内時計の「大きさ」が小さくなる(あるいは反応が鈍くなる)ためではないか、と言われています。また、体内時計の異常は、夜間勤務する人の体調不良、児童や生徒の不登校の一因になっているとも言われています。

 時差ボケのような「自分の時間が社会とずれている」という問題、あるいは季節性うつ病のような「自分の季節と社会がずれている」といった問題は、決して小さいものではないのです。

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文=上田泰己