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約40億年前のバクテリアにも正確な体内時計が備わっていた

 この体内時計の性質をうまく利用したユニークな植物の時計に、「リンネの花時計」があります。

 リンネの花時計は、植物学者のカール・フォン・リンネが1751年に考案したもので、時刻ごとに咲く花を概念的に並べたものです(後に実際につくられた)。リンネの花時計では、午前6時から正午までに開く花、正午から午後6時までに閉じる花、こういった花が1時間ごとに順番に並べられています。

 こうやって並べられた花の状態を観察すれば、咲いているか閉じているかでその場所の時刻が推測できるというわけです。これなら、時差のある場所に旅行に行ったとしても、機械時計が手元になくても、花の状態で時刻を推測できます。花それぞれはもともと「いつ咲くべきか」を内側の時計でわかっているので、生物の共通理解でもある外側で流れている時間についても知らせることができるのです。

 その体内時計の性質をリンネは利用した、と言えるでしょう。ですからこれは、リンネが「作った」時計であると同時に、自然が作った時計にもなっています。この花時計がきちんと機能するためには、花の体内時計がしっかりと機能している必要があります。

 このように、地球の自転のもたらす1日24時間という周期にあわせてサイクルをつくり出す機能のことを「概日時計」と言います

 概日とは、「おおよその1日」の意味です。人間も太陽が出たら起きて活動し、太陽が沈んだら活動を止めて眠る動物です。この24時間サイクルは生活と密接に関わっていますし、おそらく人間が原初から持つ習性に近いものです。

 人間以外の動物、例えば夜行性の動物も「夜に活動する」のですから、この24時間周期の体内時計を自然に体得している可能性があります。

 多細胞生物だけではなく、原始的な単細胞生物であるバクテリアにも、体内時計はあります。地球は約46億年前に誕生し、その数億年後に生命が出てきたと言われていますが、その頃にシアノバクテリア(藍藻)という光合成をするバクテリアが登場しています。このシアノバクテリアにも、正確な体内時計が存在することがわかっています。

 あるいは、地球の公転がもたらす1年365日という季節性の周期を把握する機能もあって、これを「光周性(photoperiodism)」と言い、もしかすると「概年時計」という1年周期の時計が存在するかもしれないと考えられています。

2024.07.14(日)
文=上田泰己