「日本人の好みはどう変わってきたのか?」を考察する、『味なニッポン戦後史』(集英社インターナショナル新書)が話題となっている。著者の澁川祐子さんに、本書への思いや執筆テーマについてうかがった。(聞き手・白央篤司)


日本人の味の戦後史に迫る話題作

“(本書ではまず)世界でも注目される「うま味」に焦点を当てる。次に生命維持と深く結びついている「塩味」、人間にとって生理的に好ましい味である「甘味」を取りあげる。続く「酸味」や「苦味」は味覚の脇役に思えるかもしれないが、じつはおいしさをチューニングする鍵を握っている。そして味覚には分類されないが、味わいに興を添える「辛味」を俎上に載せる。最後は目下、第六の味覚として最有力候補に挙がっている「脂肪味」に注目する”

(『味なニッポン戦後史』「はじめに」より抜粋)

――うま味や塩味、甘味などの角度から日本人の味の戦後史に迫っていく本作、抜群に面白く読ませていただきました。この構成はどうやって思いつかれたのですか。

澁川 「食文化に関するものを書いてほしい」と編集の方から打診があって、さてどうしよう……となったとき、かねてから関心を持っていた社会的な「味の変化」をテーマにできないかと考えました。その際に思い出したのは、柳田國男が記した一節です。『明治・大正史 世相篇』という本の中で、「明治以降の食物には、三つの著しい特徴がある」として、

「一、温かいものが多くなったこと
二、柔らかいものを好むようになったこと
三、概して食うものの甘くなってきたこと」

 と挙げているんですね。「人の好みが在来のものの外へ走って、それが新たなものを呼び込んでいる。押し付けられたものではない」とも。変化の背景には経済的、技術的な近代化の影響があったんでしょう。こうした視点を広げて、戦後の変化を一冊にまとめられないだろうか、と。

――『遠野物語』で有名な民俗学者の柳田國男は明治8年生まれ。そんな考察も残していたのですね。

澁川 ええ、ですがやはり断片的な印象論という感じで。もう少しきちんと分析して、時系列的に書いてみたいと思いました。「味覚」という切り口をもってくることで、時代の流れを横断的に追うことができるのではないか、と。

2024.07.11(木)
文=白央篤司
写真=平松市聖