単なるパンの域を超えたデンマークの象徴

 「ロブロ」という単語を、初めて目にする読者もきっと多いに違いない。ロブロとは、デンマークにおいて、1,000年もの長きにわたって造られ続けるライ麦パンのこと。断面がほぼ正方形を成すパウンドケーキのような実物を見れば、ああ、あのパンかと思い当たるかも。

 小麦に比べて耐寒性に優れ、養分の貧弱な土地でも育つライ麦は、北欧の厳しい風土でも栽培が可能な穀物として重宝されてきた。そのライ麦の全粒粉と塩と水とが基本となる材料を、イーストではなくライサワー種で発酵させたものが、ロブロとなる。

 デンマーク人にとって、ロブロは単なるパンの域を超え、母国を象徴するような存在。外国で暮らすデンマーク人は、じわじわとロブロを恋しく思うようになるという。

 このたび、ロブロに関し、歴史、文化、健康と栄養、美味しさ、サステナビリティといった多角的な観点からじっくりと読み解く書籍が登場した。その名は、『北欧デンマークのライ麦パン ロブロの教科書』(誠文堂新光社)。まさに、教科書と名乗るにふさわしい充実した内容に仕上がっている。

 著者のくらもとさちこさんは、コペンハーゲン在住。これまで30年以上デンマークに暮らし、食を中心に、この国の豊饒な文化について紹介を行ってきた。2020年に日本版が刊行されたカトリーネ・クリンケン著『北欧料理大全』(誠文堂新光社)では、編集、翻訳、そして序章の執筆を担当している。

 本書は、ロブロがいかにデンマーク国民の人生に根づいているかを詳述する。例えば、硬くなったロブロは、赤ん坊の歯固めのためおしゃぶりとして活用され、婚約したカップルは、婚前に二人でロブロを持ち上げ、食べ物に困らぬよう願いを捧げるのだとか。

 ロブロは、三食において、さまざまな形で大活躍する。そのまま食べるのはもちろん、上におかずをのせ「スモーブロ」と呼ばれるオープンサンドにしたり、食材を挟んでサンドイッチにしたり、クルトン状やそぼろ状にしたロブロをデザートに加工したりすることも。お祝いの宴では、ロブロを使ったケーキも供される。

2024.07.01(月)
文=CREA Traveller編集部