この記事の連載

焼肉屋で親子3代で食事をしている家族を見ると…

――敵わない?

 東京で生まれ育った人はしょってないというか、どこか違うんですよ。流行りのものを持ってなくても恥ずかしがらないみたいな(笑)。田舎には、「東京じゃ〇〇なんだって」と聞いてそれを持たなきゃと思ってしまうところがあるような気がするんですけど、東京の人は何を持とうと気にしないというか。

 焼肉屋に行って、お爺ちゃま、お婆ちゃま、息子さんご夫妻にお子さんの親子3代で食事しているご家族を見ると、それだけで負けた気がします。この感覚、東京の人にはわからないでしょ?(笑)  東京に対するコンプレックスは一生抜けないと思いますね。

――でも、光石さんは気負っている印象はなく、すごく自然体に見えます。

 自然体……どうなんでしょうね? 自分ではちょっとわからないけれど。

 でも、僕、一人っ子だから、外面がいいんです。子供の頃、親に連れられてどこかに行っても、大人から「いい子だね」と言われるように振る舞っていたんです。いまでもなるべく変な人に見られないようにしている気がします。

 人をおしのけて何かを奪い取るとか、何がなんでも我を通すということができない。争うのは苦手ですね。

――もっと野心的にならなければ、我を通さなければと思っていた時期はあったのですか?

 よく覚えてないけれど、30代なんかはそういう時期もあったんじゃないですか?

 ただ、割とマイペースなので、そこはよかったなと思いますね。

 撮影現場などで、周囲でワッと何か盛り上がっていても、自分の世界に入って考え事をしていて気づかないこととかありますし。

――エッセイにも、面白い妄想がいくつか登場していますよね。一人っ子だから空想しがちだったのでしょうか。 ミュージシャンのように「ミツケン、ミツケン!」コールを浴びながらステージにあがるとか、「黒崎祇園山笠」のお囃子に選ばれて商店街のアイドルになるとか。読みながらふき出してしまいました。

 妄想(笑)。山笠のお囃子は本当にやりたかったんですよね。

――いまでも妄想することはありますか?

 いまですか? (散歩中に)「あの物件に住んだらどうなるかな……」とか?(笑)

 僕はソウルミュージックが好きなんですけど、70年代のソウルって妄想の歌ばかりなんですよ。大雨の中、車が故障して立ち往生している女の人に、男の人が声をかけて「乗って行きなよ」と自分の車に乗せていいムードになっちゃうとか。そんな出会いあるわけないだろ、というような内容なんだけど、ものすごくいい曲なんです。そんな曲を夜中に一人お酒を飲みながら聴いて、部屋で絵を描いているような青年時代を過ごしていましたね。(続きを読む

【中篇】愛犬を甘やかす日々
【後篇】俳優としての生き方
【写真30枚以上】グリグリとのお散歩フォト

光石 研(みついし・けん)

1961年生まれ、福岡県出身。高校在学中に映画『博多っ子純情』のオーディションに合格し、主演デビュー。以降、映画、ドラマなど映像を中心に活躍。主演映画『逃げきれた夢』は第76回カンヌ国際映画祭ACID部門に正式出品・第33回 日本映画プロフェッショナル大賞 主演男優賞を受賞。映画『ディア・ファミリー』が公開中。『南くんが恋人!?』(テレビ朝日)が7月16日より放送スタート。

リバーサイドボーイズ

著者:光石 研
価格:1,760円(税込)
発行:株式会社 三栄
» この書籍を購入する(Amazonへリンク)

次の話を読む「家は彼のおもちゃで溢れています」俳優・光石研が愛犬グリグリくん(10歳♂/トイプー)の名前に込めた“思い”

2024.07.06(土)
文=黒瀬朋子
撮影=榎本麻美
ヘアメイク=大島千穂