この記事の連載

一生懸命目立とうした成れの果てが、いま。

 これまでに250以上のドラマや映画に出演してきた光石 研さん。演技について質問しても、スタッフの皆さんに助けられているだけ、と多くは語らない。還暦を過ぎても変わらず謙虚で、素敵な大人でいられる理由は?

 ロングインタビューの最終回。

【前篇】光石さんと北九州、東京。
【中篇】愛犬を甘やかす日々
【写真30枚以上】グリグリとのお散歩フォト


やりたいこととやれること、求められることのバランス

――最新エッセイ『リバーサイドボーイズ』にも書かれていましたが、光石さんは『ピーター・グリーナウェイの枕草子』や『Helpless』に出演されるようになった30代から、俳優のエゴを捨て、作品の一部として役割を果たすことに意識を向けるように、変わられました。その徹底ぶりがすごいなと思います。

 すごくもなんともなくて、現場で仕事をしていると、結局は映画は監督のものだし、俳優は作品の一部にすぎないということに行き着くんだと思います。主演の方の関わり方はまた別かもしれませんが、僕のように脇でやっている人間は。

――主演作はどうですか? 去年主演された映画『逃げきれた夢』はカンヌ国際映画祭ACID部門に正式出品されて、二ノ宮隆太郎監督と共にカンヌにもいらっしゃいました。

 カンヌに限らず国内外の映画祭に呼んでいただくことはあるのですが、映画祭に行くと、映画はやっぱり監督のものだなというのを痛切に感じます。

 もちろん呼んでいただけるのはありがたいし、カンヌの海岸でおしゃれなお洋服を着せていただいて、写真を撮っていただいたり、取材していただいたりするのは嬉しかったです。でも、僕は出ているだけで何もしていないので(笑)。

――では、光石さんはどういうことで仕事の充足を得ているのでしょうか?

 撮影現場で1カット1カット、OKが出てカットが完成されたときに至福を感じますね。照明部、衣装部、撮影部……スタッフの皆さんと一緒になって完成できたことに喜びを得ます。

――エッセイの中でも「ボクは何もできない」や「俳優を目指すキミへ」という章で徹底して周囲の力に支えられていることを書いておられます。もともと謙虚なご性格もあるとは思いますが、これだけのキャリアを持ちながら、驚きました。

 映像では照明や衣装、カメラ、スタッフの皆さんの力で、役に深みを与えてもらっているんですよね。僕はそこに立ってセリフを言っているだけなんです。

――では職人俳優の光石さんとしては、こうして取材が増えたり、舞台挨拶に呼ばれたりすることについてはどう思っていらっしゃるのですか?

 呼んでいただくことはものすごく嬉しいです。昔はそんなことはなかったですから。作品の顔として隅っこでも選んでいただけるのはありがたい。ただ、「僕はそんなに貢献はしてないんですよ。呼んでいただいたので、賑やかしに来させていただきました」という気持ちでいます。謙虚でもなんでもなく、本当にそう思っているので(笑)。

――俳優になる方は、程度の差はあっても、人気者になりたいとか、自分を見て欲しいという意識を持っていらっしゃるのだろうという色眼鏡をかけて見ていたかもしれません。

 僕も、爪痕を残したいとか、みんなに見てもらいたいと思っていた時期はあったと思いますよ。一生懸命、目立とうとして赤い服を着て現場に行ったり(笑)。その成れの果てがいまなのかもしれないです。やりたいこととやれること、求められることのバランスがありますからね。年をとるとそういうのがわかってくるんじゃないですかね。

2024.07.06(土)
文=黒瀬朋子
撮影=榎本麻美
ヘアメイク=大島千穂