久々に箱根の関を越えて出展される「風神雷神図屏風」
久しぶりに俵屋宗達の国宝「風神雷神図屛風」が箱根の関を越え、東京国立博物館での特別展『栄西と建仁寺』に出展される。所蔵先の京都・東山に位置する建仁寺は、平安時代末から鎌倉時代初めにかけて活躍した栄西禅師の開創になる京都最古の禅寺。ゆかりの寺宝は数多いが、今回注目するのは、かつて右京区の妙光寺に伝来し、幕末に建仁寺へ移されたというこの屛風だ。
実は本作には、落款(サイン)も印章(ハンコ)も、確実な文字史料もない。ないが、宗達画であるという寺伝と、江戸時代初期という制作年代、形式、構図、技法などから「それ以外考えられない」と、研究者たちが揃って「宗達筆」の太鼓判を捺し、いまや最高傑作として、その画業の頂点に位置づけられている。
江戸時代初期の京都で活動した俵屋宗達は、生没年さえはっきりしない「謎の絵師」。権力者や寺社に専属契約で仕え、「オートクチュール」の絵を描く土佐派や狩野派などと違い、扇面から屛風、着彩画から水墨画までさまざまな「既製品」の絵を商う、市中で人気の絵屋、「俵屋」を率いた。この宗達、そして本阿弥光悦の二人を祖とし、直接的な血縁や師弟関係によらず、技術や画風を絵師から絵師へパスしていった系譜を琳派と呼ぶ。彼らが繰り返し描き、琳派を象徴するアイコンとなったのが、「風神雷神図」だ。
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室町時代の文献に記述はあるものの、実物で残っているのは宗達「風神雷神図屛風」が一番古い。二曲一隻というプロポーションの屛風は、やはりこれも宗達が先駆けて用い始めた背景ゼロの総金地。その上に、風神と雷神が唯一の主人公として向かい合う。この構図やポーズは、三十三間堂の「風神雷神」木彫像、また「松崎天神縁起絵巻」などから引用したようだが、雷神の太鼓をあえてフレームアウトさせるトリミング、超然としながらユーモアを湛えた表情などによって、引用先を遥かに上回る躍動感や、神々の哄笑が響き渡るような明朗な雰囲気を生み出している。また「線が命」という日本絵画の常識を裏切って、まず淡彩で線を引き、その線を残して周囲に濃彩を塗ることで、淡墨線と彩色の間にわずかな隙間を作り、輪郭のエッジに柔らかな印象を生み出す「彫り塗り」の技法を駆使。既知の形式や意匠、技法から生み出されたまったく新しいイメージは、尾形光琳、酒井抱一、鈴木其一らによってコピーが繰り返され、ディテールを少しずつ変化させながらも、その「核心」は変わることなく、私たちの脳裏に印象深く刻まれている。
開山・栄西禅師 800年遠忌 特別展「栄西と建仁寺」
宋へ留学して仏教を学び、日本に禅宗(臨済宗)を広め、晩年は重源に続いて東大寺復興の責任者となった栄西。その著作や自筆書状でその足跡をたどるとともに、ゆかりの学僧たちの墨跡や、寺宝として伝えられた海北友松、伊藤若冲らの絵画、染織、陶磁器などを紹介する。
URL http://yosai2014.jp/
会場 東京国立博物館 平成館
会期 2014年3月25日(火)~5月18日(日)
入場料 一般 1,600円ほか
問い合わせ先 03-5777-8600(ハローダイヤル)
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2014.03.08(土)
文=橋本麻里