左:アンディ・ウォーホル 「キャンベル・スープI:チキン・ヌードル」 1968年 アンディ・ウォーホル美術館蔵 (C) 2014 The Andy Warhol Foundation for the Visual Arts, Inc. / ARS, New York
右:アンディ・ウォーホル 「マリリン・モンロー(マリリン)」 1967年 アンディ・ウォーホル美術館蔵 (C) 2014 The Andy Warhol Foundation for the Visual Arts, Inc. / ARS, New York Marilyn Monroe TM; Rights of Publicity and Persona Rights: The Estate of Marilyn Monroe, LLC marilynmonroe.com

 東京都現代美術館開館の翌年にあたる1996年に、「アンディ・ウォーホル 1956-86:時代の鏡 MIRROR OF HIS TIME」が開催されてから20年近く、日本では本当に久しぶりとなるウォーホルの大回顧展が、六本木の森美術館で始まった。その20年間に成長した若い現代美術ファンにとって、ウォーホルはどんな存在なのだろう。もちろん多くの人が、《キャンベル・スープ缶》や《マリリン・モンロー》など、よく知られたイメージは把握しているだろう。だが彼が現代美術の世界にどんなインパクトをもたらしたのか、その作品にどれほどバリエーションがあるのかについては、かなり漠然とした理解に留まっているのかもしれない(もちろん筆者も60~80年代の「熱気」は体験していない)。だからこそぜひ、「神棚」の上に祀り上げられてしまったウォーホルにあらためて向き合い、作品を観てほしい。《エルヴィス》や《毛沢東》だけでない、商業イラストレーション時代から実験映画まで、モチーフや表現方法、コンセプトなど、至るところで「よく知ってるあれ、ウォーホルが元ネタだったのか」と発見を重ねていくうちに、なぜウォーホルが現代美術の「イコン」となったのか、腑に落ちるはずだ。

会場風景。ウォーホル作品のアイコン的存在、シルクスクリーンによる名作の数々。

 会場は冒頭、写真や絵画などウォーホルによるセルフ・ポートレイト作品を集めたセクションから始まる。1人の人間をモチーフにしながら、媒体も、その中の姿も、付された色も千変万化する肖像は、世界中で観られ、語られ、無数の誤解と賞賛に彩られた万華鏡のようなウォーホルのイメージそのものと言える。

 そこから時間軸に添ってウォーホルの歩んだ道が紹介されていく。スロバキアからの移民一家に生まれ、1949年、大学卒業後にNYへ出たウォーホルは瞬く間に売れっ子イラストレーターとなり、デザイン賞も受賞。インクを転写することで線に独自の滲みやかすれなどの表情を与える手法や、スタンプを作って同一のイメージを転写と反復を行う手法は、後年の作品でも頻繁に行われ、ウォーホルの十八番となった。

会場風景。ビジネス・アート時代に制作された、世界のセレブリティをモチーフとした作品。

 デザイナー・イラストレーターとして十分な成功を収めたウォーホルは、62年にアーティストとして最初の個展を、ロサンゼルスのギャラリーで開催する。この時出展されたのが、32枚すべて同サイズの、キャンベル・スープ缶を描いた連作絵画だ。それらをスーパーマーケットの商品陳列棚よろしく展示し、以後も《リステリン瓶》《ハインツ・トマトケチャップの箱》など、アメリカの大量生産・大量消費を象徴するモチーフを繰り返し作品に登場させ続ける。商品ばかりではない。《広告:アップル》《広告:モービル》《エルヴィス》《マイケル・ジャクソン》など、アメリカの大衆に支持された企業や著名人なども、ウォーホルが好んだ題材だ。

<次のページ> 作風を限定することに抗うような多彩な作品群

2014.02.15(土)