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詐病疑惑の理由

 結局、「すいがんは悲惨なはず」「治療がすごく大変なはず」とか、「こんな若さで発症するなんて聞いたことない」「抗がん剤治療がこんなに効いて、できないと言われた根治手術までできるなんて」、しかも「海外旅行に行くなんて」と、一般的なすいがんのイメージとはかけ離れているので、詐病を疑う人が出てきたのでしょう。ご自分の家族や知り合いが、すいがんでひどい目に遭ったのを目にしていて、それとあまりにかけ離れているから疑いを持ってしまう。

 ところが興味深いことに、医師で疑いを持つ人はほぼいないんですよね。

 がん患者さんというのは十人十色、千差万別だということが医療者にはわかりきっているので、こういう経過も確かに起こり得ると思えるし、証拠がなかったとしても嘘だとは言いきれないと思っているから、疑いの声を上げないんですよ。むしろ声を上げたら、ほかの医師から「この人本当に医師かな? わかってるのかな?」と疑われかねないので。

 サニージャーニーが出しているいろいろな情報は医学的に見ておかしいところっていうのは本当にないんですよ。一般の方がそう思われるのは、その方の常識があまりにも狭すぎるから。「私の知っているすいがんのケースと違う」と思ってしまうんですよね。すいがん、すい臓がん、すい管がん……名称はいろいろありますが、基本的には全てすいがんです。

がん患者の旅行について

 治療中に、みずきさんが海外に行かれたことも、確かに健康な方に比べればリスクは高いんでしょうけど、治療によってがんそのものと副作用に関してコントロールの目処がついているタイミングで、行けると主治医が判断して、海外旅行を勧めてくれたんだろうと思います。それは普通のがん治療医の考え方としても、何も矛盾はないです。

 僕自身もがん患者の方に旅行を勧めたりはしています。だってがん治療していても、治療そのものが人生の目的ではないじゃないですか。たとえ治療がうまくいって喜んでも、そればっかりやってるんだったら、なんのための治療かわからないですから。

時代の変化

 昔では考えられなかった動画やSNSの持つパワー。当然ながらその振れ幅も大きい。今までの人間の歴史にはなかったくらい急激に変わってきているので、みなさんはその「風景」を見ているんだということをわかっておいてほしいと思います。

 これから先もどんどん変わっていくだろうし、テクノロジーが発展して便利になるだろうけれど、予想外のトラブルも起こってくるわけです。

 がん治療も、昔とはずいぶん変わってきていますから、サニージャーニーがやっているいろいろなことも変化の風景と捉えて、それを見ている方々の人生に役立ててほしいと思います。

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押川勝太郎

宮崎善仁会病院・腫瘍内科医。NPO法人宮崎がん共同勉強会 理事長。25年間でがん患者1700人以上を直接治療し、3000回以上のセカンドオピニオンを実施。全国1万人以上のがん患者と直接対話している。運営するYouTube『がん防災チャンネル』(登録者約6.8万人=2024年2月時点)では、一般の方が匿名でも質問できるがん相談飲み会ライブを毎週日曜夜に開催中。

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2024.05.27(月)
文=押川勝太郎、双葉社編集部